「シートベルト」
私がまだシートベルトをしていないことに気づいた修平は、自分のシートベルトを外して、私のシートベルトをしてくれた。

「ありがとう」
御礼を言いながら恥ずかしくてうつむく私。
「おう」
いつものようにそっけない返事の修平。

ハンドルを握る修平の横顔も、筋の通った手も、どきどきする。
車で15分ほどで私たちの職場に着く。

私たちは同じビルで働いている。
私は一回のカフェ店員。
修平はビルの5階にある法律事務所の司法書士。

同じビルで仕事をしていることすら、偶然ではない。
私が先に就職先を決めて、修平は決まっていた大手の法律事務所の内定を蹴って、今の法律事務所に就職をした。