「動いて大丈夫?」
「うん。平気」
「良かった……」
「春は?何もされてない?」
「…うん。俺は何ともない」
「そっか…」
そしてまた、彼をギュッと抱きしめる。
良かった。本当に良かった。
もし春がこの世からいなくなってしまったらと思うと……これから先、生きていける自信が無い。
その感覚を身に感じていると
唐突に頭に思い浮かんだのは一花さんの顔。
このままいくと、私も一花さんみたいに『異常』になってしまうのだろうか。
「………、…春?」
春の手が私から離れ、顔をまた俯かせるから
私も彼が座る長椅子に腰掛けた。
「どうしたの?」
「………あのさ」
「うん」
ゆっくりと顔を上げた春は私と瞳を合わせる。
不安や悲しみ、恐れ。そんな感情が入り交じったような、今の春は形容のできない妙な表情を浮かべていて
「アメリカ行こう」
「………………え?」
「明後日にはここを出ようと思ってる。
まだ家は確保出来てないけどスグ見つけるから」
「えっ………」
「そこで暮らそう」
突然だった。
本当に突然で、私は一瞬放心状態に。
アメリカって……なんでまた急に。
なんて思うほど私は馬鹿じゃない。
「もともと話は来てたんだ。一度海外で活動してみないかって。そうなればもちろん向こうで暮らすことになる。
凛にも一緒に来てもらおうとも考えたけど凛には本屋の仕事があるし、俺の個人的な理由だけで連れて行くのも違うと思ってた。
けど……こんなことがあった以上、今はもうそんなこと言ってられない。」
今回の件があって、春はそう決断したのだろう。
「ここにある物全部捨てて、俺についてきて」
ここにいると危険だと。