「きゃっ!何すんのよ…」



掴まれている部分を思いっきり振り払って後ろのドアへと走った。


が。



「っ、わっ…!」



床が濡れているせいで盛大に転けてしまった。


ガンッ!と床に頭をぶつけたせいでズキズキする。


「痛っ…」と顔を歪めている間に、一花さんが私の上に馬乗りした。


頭は痛いし身体は動かない。



「あはっ…残念ね」



不敵な笑みを浮かべる一花さん。


モデル体型の彼女なんて、ほぼ毎日重たい本を運んでいる私にとっては簡単に振り払える程の体重だと思う。


だけど。今頭をぶつけたせいか、ここに連れてこられる前に吸わされた何かのせいなのか。


もしくは



「っ…あ……」



一花さんの手が私の首にあるからか。


頭がクラクラしては自然と声が出なくなった。



背筋が凍って、微かに手が震える。


こんな状況、初めてだから。

サー…っと血の気が引く感じ。



「ねえ…契約しない?」



そんな意識の中


一花さんだけは、

不気味な笑みを浮かべて口を動かす。



「今ここで「離婚する」と誓って。それからこの先二度と春に近づかないこと。記憶から消すの、春のことを全て。それなら生かしてあげる。

…ね?簡単でしょ?

アンタは今まで通り一般人として生きていくの。私達のいる世界とは離れて、テレビで私達を眺める世界。今までずっとその世界で生きてきたならその方が性に合ってると思わない?」



「はい」と。

同意せざるを得ないこの状況。


そうしなければ

今ここで私は殺されるだろう。