「じゃあそろそろ退散しよっかな」

「おやすみ」


キッパリとそう告げれば
春は「切り替え早いな~」とまた笑う。


じゃないとまた引き止めてしまいそうなんだってば。


「おやすみなさい」


ふわりと笑う彼を見送って

パタンとドアが閉まった後


私はその場で軽く頭を抱えた。


(……やってしまった。)


今回はバレずに済んだから良かったものの、
もしこれがバレていたらと思うとゾッとする。


普通に考えて、他人の家でそういうことをするのはおかしいはず。


そう分かっているくせに抑えが効かないなんて……私はどこまで彼を求めれば気が済むのだろう。



いくらキスをしたって

いくら身体を重ねたって


それでも十分に満たされない私の心。


(清美一花…)


彼女の存在が私達の中からなくなれば

心配も何も無くなって、心は完璧に満たされる?


もしそうだとすればそうであってほしい。

他の理由なんかじゃなくて、それが理由であってほしい。



これ以上おかしくなる前に。



私は普通じゃないんだと、

この時にはもう薄々と感じ始めていた。