会場の入口も、店内も。
何一つブルーベルとバルモアの婚約を祝う飾りが無い。
勿論、カーティス・ブルーベルの隣にクレアが呼ばれることもない。
嫌がる父を引き連れて母とクレアが入口に立とうとしたら、丁寧に中に戻るように言われたらしい。
「どう言うことなの、クレア?」
親戚やクレアの友人達以外のゲストからは誰ひとりとして、婚約のお祝いの挨拶もされない。
ここに来るまで幸せそうに輝いていた母の顔が、陰り始めた。
「……」
昔から都合が悪くなると、何も話さない妹だった。
だが、家庭内で聞かれたくないことに答えろ、と言ってるのではない。
ここまで来て、何も話さないとは成人した人間としてどうなのか。
俺はとりあえず席を立ち、ゲストを迎え入れているカーティス・ブルーベルの所に向かった。
この集まりが婚約披露ではないのなら、それでもいい。
ただ、本当にクレアと付き合っている、と。
その一言だけでいいから聞きたかったのだ。
どんな主旨のパーティーであれ、君がクレアの恋人なのだ、と確認だけ欲しいのだ……