そう想像しながら葉月の話を聞き、わたしはなんともいえない興奮を感じた。シャイでかわいい、理想の色に対する感情とよく似ていた。ぞくぞくするのだ。どうしようもなく悔しくて、楽しくて、叫びだしたいような、暴れ回りたいような、激しい衝動のような興奮。

 ああ、なんてもったいないんだろう。
 そのもったいなさときたら……ああ、なんて眩しいんだろう。

 わたしはあんたのせいだといった上に、感情と興奮のままに葉月を否定した。あんたは間違っている、なんてもったいないことをしたんだ。なんだって、それほどまでに魅力的な水月の絵を、誰かに否定させる余裕のあるところへ送りだしてしまったんだと。

 ああ、水月——。

 花車水月。どうか目を開けて。いつまで眠っているの。早くわたしを見て。わたしの絵を見て。あなたの弟が、本物を知っているあなたの弟が——本当にただの嫌味かもしれないけれど——先生と呼ぶわたしの絵を見て。

 それを見て、もしも、少しだけでもまた描きたいと思えたなら、今度こそ成功してやろう。決してこのままで終わらせない。

 ああ、なんて悔しいんだろう……。

 体が震えるようだった。わたしは自分で自分の体を抱くようにして、興奮の落ち着くのを待った。

 葉月。あんたは、確かに間違えたけれども、全部を間違えたわけじゃないよ。
 葉月、あんたは正しいよ。水月はそんなところで燻っていられる人じゃない。

 ああ、なんて……狂おしい……。

 わたしは葉月の目を見て宣言した。

 「水月が望むなら……わたしが水月を、いるべき場所に連れていく」

 誰にも否定させないところで、水月の素晴らしさに羽根を広げてもらおう。

 葉月、あんたが連れていった場所は、あんまりに観客が少なかったんだ。顔も名前も知らない数人の好みに合うものを描こうなんて無茶な話だよ。

水月が実際にどんなコンテストにどんな絵をだしたかわからないけれど、花の絵が見たい人にどんなに美しい抽象画を差しだしても反応が悪いのは当然。

 でも、もっと多くの人に見てもらえたなら、その中には絶対、とにかく美しいものが見たい人だっているはずでしょう?

 だったら、こっちからいくまでだよ。美しい絵を見たい人のところに。