しかし、理想の色というのは簡単にはでてこない。

 わたしは油のにおいの満ちた部屋でごろりと寝転んだ。

 あの試合から、一週間が経った。学校で花車には何度も会った——席が隣なものだから、嫌でも姿は視界に入ってくる——けれど、「なんてみっともない試合かな」とばかにすることも、「立派な試合だったわね」と嫌味をいうこともできなかった。

 てらちゃんはといえば、あの日は告白をするといっていたけれど、一向に行動に移す気配がない。見ていて焦れったく思うわけではない。

立派にこれが恋だと宣言できるような経験はないけれど、気持ちはよくわかるつもりでいる。好きな人に好きだと伝えることに、とても勇気がいることくらい、わたしにだって想像できる。

本当に好きだと思う人に出逢えたら、そばにいるだけでも、姿が見えるだけでも落ち着けなくなってしまうんだろう。映画で、ドラマで、小説で、漫画で、そういう純粋で大切な感情を知っている。まるで自分のことのように知っている。

 だから決して、てらちゃんを急かすつもりはない。

 けれど、このままではちょっと、あのばか男との接し方がわからないというところではある。あのばか男のことが気に入らないのは今も変わらない。だからこそ、「立派な試合だったわね」と嫌味の一つや二つ、三つや四ついってやりたい。

 あんなやつでも、大切な友達の好きな人なわけで、いくらわたしでも、大切な友達より気に入らないばか男に嫌味をいってやる方をとるほどのばかではない、そのジレンマ!

 相手があいつじゃなければ、もっと立派な素敵な人だったなら、こんなふうに思うこともなかっただろうに。

 深く吸いこんだ息をゆっくり吐きだすと、携帯電話が着信を知らせた。ごろりと転がってうつ伏せになり、上体を起こしてベッドまで膝で移動する。

 着信はてらちゃんからだった。画面を操作して耳に当てる。

 「なにしてるでやんすか?」と軽やかな声がした。

 「ちょっと遊んでた、家で」

 「暇でしょうがないんでやんす、付き合ってくれない?」

 「うん、いいよ」

 「ていうか、その……勇気、ないなあって……」

 大丈夫だよ、といいかけて、その言葉の無責任さを思いだして飲みこむ。わたしは花車の、ほんの少しを知って、それを気に入らないと思っているだけだ。

どんな人が好きなのかとか、もしかしたらすでにいるかもしれない付き合っている人のこととか、なにも知らない。知らないままで、済んでしまっていた。

 「やっぱり花車くんほどの人なんだし、すごいかわいい子が好きなんでやんすかね?」てらちゃんの声は、軽く感じさせるために色々なものを含んでいた。

 「てらちゃんはかわいいよ」

 「……花車くんも、そう思ってくれるかな」

 「わたしは、そう思うよ」

 あまりに曖昧な返答に、自分でもうんざりする。