千葉のぱらぱら漫画は英語のノートにまで描いてある。ぱらぱらせずにコマを見てみると、どうやら海外の文学作品をどうにかしてしまったらしい。

千葉のことだから、英語のノートというので日本以外の国の文学作品を使ったのだろうけれども、英語以外の言葉を使う国の作品の方が多い。

 「気になる?」

 「いや、特になにも」

 「題名は、赤と黒と白と罪と罰」

 「そりゃだいぶ(くじら)の影が薄いな」

 俺はページの端に描かれた棒人間と、鯨と思しき巨大な生物を見おろした。主人公はこんなに戦っているというのに、題名には完全な二作の名前の間に、白としか入っていない。

 「これ、俺の最高傑作な」

 「棒人間の吾輩はどうした」

 「その棒人間は——」

 俺は右手を突きだした。「わかった、いわなくていい。わかった、大丈夫だから」

 「そう慌てるなって。大丈夫、一捻りも二捻りもしてるから」

 ぱらぱら漫画ではなく授業の内容のためにページをめくる。

 「どうせこの棒人間、あまり褒められない恋愛をしてちょいと罪を犯し、海に飛びだしたんだろう」

 「なぜわかる」

 「題名がそういってる」

 「でもあれだぞ、その棒人間、死刑にもならないし自首もしない」

 「最低だな」

 では()が生きてくるのか。道徳に反しながら助かるとは、千葉のやつ、とんでもないことをしてくれる。作品と作者への冒瀆(ぼうとく)だ。

 「船と一緒に沈んでいくんだ。鯨がこいつに罰を下してくれるんだよ」

 「まあそういうことなら……。でも明らかに原作は潰してるよな」

 「そうか?」

 「最悪だよ」

 俺はちょっとふざけたくなって、息を吸いこんだ。

 「やっぱり千葉、これで稼ぐんでしょ?」

 「おう」

 「まじでやめとけ」

 「お前この流れ気に入ってたのかよ」と千葉が苦笑する。

 「ごめん、ちょっと楽しかった」