大型連休が挟まったものだから欠席の数はかなり少なくなっているけれど、学校を休むようになってからもうだいぶ経つ。

 葉月が試合にいってから、友達が家にやってきた。苗字は千葉。彼の呼び方は決まって千葉。愛称が千葉。彼には大学生の兄がいるらしいけれども、その兄ほどではないとしながら、千葉は自分の名前を、女みたいだからといって気に入っていない。苗字の「千葉」以外の呼び方を受けつけないほどだ。

 彼は玄関先で「ごめん」といった。なにが、と訊き返すのもどうかと思い、「いや、俺も寂しかったよ」と答えた。

 「その、……別になにってわけじゃないんだけど」

 「いいよ。入って」

 俺はつっかけた下駄を脱いで廊下にあがった。二階にある私室へ向かう。

 「ずいぶん気取った服、着てるんだな」と千葉は笑った。

 「そうか? 俺からすれば千葉はかなり気合が入ってる」

 「気合?」

 「友達の家にくるのにドレスコードなんかないよ」

 「いや、そんなつもりじゃ……」

 後ろから聞こえる困り果てた声に「いや、わかってるよ」と笑い返す。確かに千葉の格好は白の半袖のティーシャツに色の濃いジーンズといったもので、現代の日本では特に目立つことのない軽装だ。

 幼い頃から、家では和装、外出の折には洋装という調子できたもので、葉月と違って普段から洋服で過ごそうと思う機会がなかったものだから、俺としては洋装というのはなんともかたく、洒落ているように感じる。

 「水月って家じゃいっつもそんな格好なのか?」

 「うん、洋装はそわそわしてしょうがなくてね」

 「ふうん……。まあこの家じゃそうかもな……」

 二階にあがると、廊下がそうなっている通り右に折れ、三つ並んでいるうち真ん中の襖を開いた。