「あの子か。魔女っていうより天女じゃねえか」——。
葉月は帰宅早々、試合について俺に話した。休憩の間、葉月の思い人——と俺が推測する女子——が、相手の田崎選手を褒めたとき、それを聞いた田崎選手がそういって笑ったらしい。
「やっかましいっつの。あのせいで、それからはあのばか女に集中力削がれてたんだぜ?」
「でも最終的には勝ったわけでしょう? 彼女は田崎さんを褒めることで、お前を奮い立たせたんだよ。確かに天女じゃないか」
「俺を応援するなら、素直にそうすればいい」
「ほかにも大勢の観客がいたわけでしょ、恥ずかしかったんじゃないか」
「先輩のファンだと思われるのは嫌じゃないわけか」
「本当の自分を笑われるより、作った側を笑われる方がダメージは少ない」
弟の表情が、陽光を雲が遮ったように翳った。胸が痛んで、俺は笑った。もてあそんでいた扇子をぴしゃりと閉じる。
「しかし、夢がひとつ叶ったわけだ。次は誰を潰すの?」
「物騒ないい方だな」と葉月は苦笑する。
「ほかにはいないわけ、気に入らない人」
「まあ、大学まで追いかけて、先輩をぶちのめすくらいだな。あのばか女を天女などといったことを後悔させてやる。俺はあの天女への憎しみでいくらでも動ける。
愚かな愚かな勝利の女神は、あのばかな天女と仲がいい。勝利の女神は俺に微笑む。先輩に勝利への道を囁くことは二度とない」
「葉月は冷静そうな顔して、かなり情熱的だね。そばにいるだけで火傷しそうだ」俺はちょっと笑って、熱いものに触れたように手を払った。
俺も、人のことはいえたものじゃないけれど。ゲームに一喜一憂するどころか、一度やっただけのゲームで負けて絶望している。そして自分の絶望に、愛おしい弟を引きずりこんでいる。
葉月は帰宅早々、試合について俺に話した。休憩の間、葉月の思い人——と俺が推測する女子——が、相手の田崎選手を褒めたとき、それを聞いた田崎選手がそういって笑ったらしい。
「やっかましいっつの。あのせいで、それからはあのばか女に集中力削がれてたんだぜ?」
「でも最終的には勝ったわけでしょう? 彼女は田崎さんを褒めることで、お前を奮い立たせたんだよ。確かに天女じゃないか」
「俺を応援するなら、素直にそうすればいい」
「ほかにも大勢の観客がいたわけでしょ、恥ずかしかったんじゃないか」
「先輩のファンだと思われるのは嫌じゃないわけか」
「本当の自分を笑われるより、作った側を笑われる方がダメージは少ない」
弟の表情が、陽光を雲が遮ったように翳った。胸が痛んで、俺は笑った。もてあそんでいた扇子をぴしゃりと閉じる。
「しかし、夢がひとつ叶ったわけだ。次は誰を潰すの?」
「物騒ないい方だな」と葉月は苦笑する。
「ほかにはいないわけ、気に入らない人」
「まあ、大学まで追いかけて、先輩をぶちのめすくらいだな。あのばか女を天女などといったことを後悔させてやる。俺はあの天女への憎しみでいくらでも動ける。
愚かな愚かな勝利の女神は、あのばかな天女と仲がいい。勝利の女神は俺に微笑む。先輩に勝利への道を囁くことは二度とない」
「葉月は冷静そうな顔して、かなり情熱的だね。そばにいるだけで火傷しそうだ」俺はちょっと笑って、熱いものに触れたように手を払った。
俺も、人のことはいえたものじゃないけれど。ゲームに一喜一憂するどころか、一度やっただけのゲームで負けて絶望している。そして自分の絶望に、愛おしい弟を引きずりこんでいる。