画廊という落ち着いた、どこか高級感の漂う空間に置いてしまうと、自分の絵の不格好さが一層際立つようだった。対して、水月の絵は魅力を増したように思う。特に、最後に選んだ模様を描いた花がたくさん描いてある一枚は、特にこの場所に合っているような感じがする。
おいちゃんがなにやら唸り始めた。その横顔を見あげると、「しかし高校生がねえ……」という。
「生意気でしょう?」とわたしはおいちゃんの本音を誘った。
「いいや」と彼はいった。「思い切り滑ってやれ」と。
わたしは自分でその言葉を誘ったくせに、鼻で笑い返した。「ええ、想像を超えてやるわ」
あとはお客さんがくるのを待つだけという頃になって、わたしは思いだして、おいちゃんに声をかけた。
「大学の頃の後輩に、青山浩美って女の人がいたの憶えてる?」
「ああ、アオミ」
「アオミ?」
「ヒロミって名前のがほかにもいたんだ、字は違うけど」
「そっか。でね、わたし、その青山浩美の姪なの」
「ほう、じゃあ綾子さんの娘さんだ?」
「そうそう、時本はな」
「はああ〜、そうかあ」
いやあ、なんていうからなにをいいだすのかと思えば、「綾子さんの方が別嬪だな」なんていうものだから、「絶対許さない」と返す。水月が「老眼だからわからないんだ」とおいちゃんにも聞こえる声でいった。
「しかし、おもしろい縁もあるものだな」
「本当、どこで繋がってるかわからないよね。いきつけのかつ丼屋さんの店員さんの弟が水月の友達だったりするし」
「そのいとこは、はなの友達だしね」と水月もいう。
そしてその人は……水月の弟が好きだし。
てらちゃん……もう、告白できたのかな。
まだなんの知らせもないけれど。わたしのことなんて忘れているくらい幸せなのであることを願う。実際、告白の結果なんて、いちいち伝えるべきことでもないのだし。
でもてらちゃんなら、とも思う。大喜びで伝えてくるのではないかと。まだ悩んでいるのか、それとも——。
いざ絵が売れてみれば、水月の方がずっと手際よく事を進めた。そして思った通り、水月の絵が先に売れたし、わたしが一枚目が売れたことに震えている間にも、彼の絵は二枚三枚と売れた。
ふと、廊下の方に人影を見た気がした。気配を感じて振り返っても、その正体は影となって去ったあとだった。
「どうした?」と水月がささやく。
「いや、さっき誰かいたような……」
「ハナコさんか? 冗談はよしてよ」
「泣いちゃうから?」
「むしろ漏れちゃう」
「うわ、絶対やめて」
冗談はよしてといいたいのはこちらの方だ。
「むしろ水月こそとり憑かれてるんじゃないの。普段そういうこといわないじゃん」
「恥をかいても死にはしないってわかったからね。ちょっと素直になってみた」
「ああ、こっちが素なんだ?」
「今まで俺がどれだけ格好つけてきたことか。去年の夏休みから崩れてきたけど」
「なんで格好つけるの」
「好きな人の前だから」
彼はほんの小さく笑った。「かわいそうに、水月くんはすっかり丸裸だ」
「すっきりしていいじゃない。今までが変だったんだよ」
「俺は幸せ者だね」といって、水月は離れていった。ハナコさんから逃げたのかもしれない。
おいちゃんがなにやら唸り始めた。その横顔を見あげると、「しかし高校生がねえ……」という。
「生意気でしょう?」とわたしはおいちゃんの本音を誘った。
「いいや」と彼はいった。「思い切り滑ってやれ」と。
わたしは自分でその言葉を誘ったくせに、鼻で笑い返した。「ええ、想像を超えてやるわ」
あとはお客さんがくるのを待つだけという頃になって、わたしは思いだして、おいちゃんに声をかけた。
「大学の頃の後輩に、青山浩美って女の人がいたの憶えてる?」
「ああ、アオミ」
「アオミ?」
「ヒロミって名前のがほかにもいたんだ、字は違うけど」
「そっか。でね、わたし、その青山浩美の姪なの」
「ほう、じゃあ綾子さんの娘さんだ?」
「そうそう、時本はな」
「はああ〜、そうかあ」
いやあ、なんていうからなにをいいだすのかと思えば、「綾子さんの方が別嬪だな」なんていうものだから、「絶対許さない」と返す。水月が「老眼だからわからないんだ」とおいちゃんにも聞こえる声でいった。
「しかし、おもしろい縁もあるものだな」
「本当、どこで繋がってるかわからないよね。いきつけのかつ丼屋さんの店員さんの弟が水月の友達だったりするし」
「そのいとこは、はなの友達だしね」と水月もいう。
そしてその人は……水月の弟が好きだし。
てらちゃん……もう、告白できたのかな。
まだなんの知らせもないけれど。わたしのことなんて忘れているくらい幸せなのであることを願う。実際、告白の結果なんて、いちいち伝えるべきことでもないのだし。
でもてらちゃんなら、とも思う。大喜びで伝えてくるのではないかと。まだ悩んでいるのか、それとも——。
いざ絵が売れてみれば、水月の方がずっと手際よく事を進めた。そして思った通り、水月の絵が先に売れたし、わたしが一枚目が売れたことに震えている間にも、彼の絵は二枚三枚と売れた。
ふと、廊下の方に人影を見た気がした。気配を感じて振り返っても、その正体は影となって去ったあとだった。
「どうした?」と水月がささやく。
「いや、さっき誰かいたような……」
「ハナコさんか? 冗談はよしてよ」
「泣いちゃうから?」
「むしろ漏れちゃう」
「うわ、絶対やめて」
冗談はよしてといいたいのはこちらの方だ。
「むしろ水月こそとり憑かれてるんじゃないの。普段そういうこといわないじゃん」
「恥をかいても死にはしないってわかったからね。ちょっと素直になってみた」
「ああ、こっちが素なんだ?」
「今まで俺がどれだけ格好つけてきたことか。去年の夏休みから崩れてきたけど」
「なんで格好つけるの」
「好きな人の前だから」
彼はほんの小さく笑った。「かわいそうに、水月くんはすっかり丸裸だ」
「すっきりしていいじゃない。今までが変だったんだよ」
「俺は幸せ者だね」といって、水月は離れていった。ハナコさんから逃げたのかもしれない。