水月をなんとか部屋に帰して眠りについた。

 なにも変わらない夜だった。一度眠りに落ちこんで、その安らぎから、あの女に引きあげられる。

覚醒しそうになった意識を無視して目をつむったまま、どんどん引きあげられる。まるで、初めから眠ってなんかいなかったように。

 満ちていく。

 頭の中に、あの女が。

 実際には見たことのない姿が、表情が、頭にしつこく残って消えない。

 実際に聞いたわけでもない声が、(つる)のように、耳の奥に強く深く絡む。

 静かにしてくれと願っても、声はやまない。

 どうか消えてくれと願っても姿は消えない。

 魔女——ばか女——……時本——どうか、少しでいい。

 少しだけで、いいんだ。

 どうか、眠らせてくれ。

 おまえの愛する自由を、どうか、どうか——ほんの少しでいい、分けてくれ。

 七時間も八時間もぐっすり眠りたいとは願わない。二時間や三時間でいい。

 どうか、眠らせてくれ。

 どうか安らかな時間を——一日のうちの二時間や三時間でいい、俺に安らかな時間をくれ。

 悪夢から醒めるたび、心臓は狂ったように叫んでいる。

 どうしてこうも狂おしい。どうしてこんなにも苦しい。

 夜に眠りたいと願えば眠れない。朝に起きなければと体に鞭を打てばたまらなく痛い。

 起きられない朝と、眠れない夜。そのどちらにもあの女がいる。朝の光と月の光のその中心に、あの女がいる。