「八月三日、単日!」と伝えると、水月は「ああっ」と声をあげて胸に手をあて、深呼吸した。

 しばらく胸に手をあてたまま俯いていた水月が、ようやくゆっくりと顔をあげた。

 「ちょっと待って……発表が容赦ない」

 「わたしだって怖かったんだから」

 一人の方がかえって落ち着いて電話ができると思って水月とは会わなかったけれど、きっとあれは間違いだったのだ。

 「電話したらいかにも上品そうなおじさんがでるしさあ。お店で店員さんに声かけたり、慣れたお店に問い合わせの電話かけるのとは全然違うのよ」

 水月は「よしよし」とうなずいて腕を広げた。わたしは素直にその中へ入る。どくん、どくんと心臓が大きな音を立てている。わたしの音なのか水月の音なのかわからない。

 「よく頑張った」

 「三万五千円だって」

 「お、そんなもんなの?」

 「いやいや、どうやって用意するよ」

 「親にせびる」と水月が笑う。

 「まあそれしかないよねえ……。絵は一枚いくらにする?」

 水月はしばらく黙りこんでから、「五千円」といった。「やっぱり?」と笑い返す。

 「いや、一瞬はね、調子にのって一万とか思ったよ。でもそれで売れなくても困るから」

 「そうなんだよね。これくらいならいいかな、っていうの大事だよね。スーパーでたまに、三百円くらいのお菓子買っちゃうみたいな。たまにはいいかな、っていう」

 水月は「わかるわかる」と笑ってくれる。

 わたしは水月の体に身を預けた。あたたかくて、素朴なにおいがする。まともに吸いこんでしまうと、うっとりして眠たくなってしまう。

 「うーん五千円。八枚は売らないといけないね」

 「まあ七枚でも」

 「そうだね、損はしてない」

 「売れるかな」

 「水月だけで五枚は売れるって」

 「それは無理だよ」と彼は笑う。「あれ全部一枚づつってことでしょ?」

 「いけるって。ていうかそれくらいは頑張ってくれないと、わたしのが大変になっちゃう」

 「俺が三枚頑張れるって希望をのせて、はなが四枚だよ」

 「荷が重いって。それならやっぱり、二人で四枚づつ頑張って、二千五百円づつの贅沢しようよ」

 「三枚より多いのにちょっと元気でるのなんなんだろうね」

 「本当。水月と同じとか一緒ってだけで大丈夫って気がする」

 水月がそっと、腕に力をこめた。わたしも水月の背中に腕を回す。

 「うまくいくといいね」という静かな声に、「いくよ」と答える。

 「大丈夫。水月がいるもん。頼りないけど、わたしだっている」

 「心強いよ」とささやいて、水月は頭を撫でてくれた。