わたしは、横になってさくらの造花を持った手を描かれたときのもの、一方の目をカンヴァスいっぱいに描かれたもの、葉月が口元で笛を持っているもの、花器に生けられた花を描いたもの、世界のいろいろな地域の伝統的な模様を描かれた花がたくさん咲いた一枚を選んだ。

その花はマーガレットに似た素朴な形をしている。マーガレットよりも花弁が太く少ないという花姿の全体に、さまざまな模様が描かれているのだ。別にどうということのない絵だ。けれども、なんだか強く惹かれるものがあった。いろいろな模様を一枚の絵に押しこんでいるのに全体を見れば主張が激しいということもなく、自分の部屋に一枚ほしいとさえ思う。

 さくらの造花を持っている手の周りに置かれた花は、青紫、白、ピンク、オレンジと、色とりどりだった。見知った花だったり、そのように見えても実際のそれとは印象が違うものだったり、とにかくいろいろな花が描かれていた。水月にとって、わたしはこんな感じなのだろうと思うとちょっと複雑な気持ちになった。落ち着かない奴だと思われているのかもしれない。

 「決まった?」と声がして見れば、直前まで見ていたものとの落差にうんざりした。

 「あ、うん……。そっちは?」

 「なんとかね」

 面目ない。

 「やっぱり空想画は入れたくてさ、それがなかなかしぼれなくて……」

 「推してくれるね」

 「うん、なんか好き」

 「なんか(、、、)って強いよ」

 「確かに。ここがいいってなると飽きそうだよね」

 「そうそう。あら、わたしってば才能あるかしら」

 「本物(、、)が惚れるようなものを描くくらいだからね」と水月はのっかってくれた。

 水月が選んでくれたのは、かつ丼を一枚、空想画を一枚、水月の後ろ姿を描いたものを一枚、水月の手の上に花がのっているものを一枚、それから、水月と合わせた手の間に花水木の枝を挟んだのを描いたものの五枚だった。

 最後の一枚は、水月がいっていた、いちゃつくわたしたちを描いたものだ。題名はもちろん、ハナミヅキ。わたしとしてはおふざけのつもりで描いたのだけれど、選出されてしまった。

 「もうさ、かつ丼と空想画とハナミヅキは外せないでしょう。それで残りの二枚は空想画でいいかなと思ったんだけど、空想画って同じ調子で何枚も描けるものじゃないなと思って、一枚にしたんだ。それでなんとか選んだけど、自分が描かれてるのって、なんかすごい恥ずかしいんだね」

 「描く人がへただからだよ」とわたしは苦笑する。「水月に描かれたのは全部、自分だってわかってるのに素敵だと思っちゃったもん」

 「はなは素敵なんだよ」となんでもないように返ってきて、思わず顔に熱が集まる。「ほら、素敵だ」とからかわれてさらに熱くなる。