料理を受けとって戻ってきても、寺町の様子は変わらない。俺がそっと手を合わせる正面で、唇を噛んで俯いている。

 「食べないの?」

 「人前で食べるのって、緊張するよね」

 「なにゆえ」

 「なんか……汚いかなとか……」

 そんなことを気にしていちゃあ、落ち着くはずがない。お礼だなんていって、よくこんなところに誘ってくれたものだ。

 「食事なんか()えなけりゃいい。おしぼりで顔を拭こうが、箸先を何寸使おうが、真っ先に味の濃いもんを食おうが、腹と気分が満たされりゃいい。ちょっとかじって食器に返すとか米を掻きこむとか、汁椀に蓋をかぶせないとか、そんなのは気にするようなことじゃない。口やかましい奴が一緒のときは大人しく見せて口をださせないか無視を決めこんで黙らせるかすればいい。俺は黙らせる方が楽しいと思うけど」

 なにを言っているのかわからない、という俺と同じような調子でか、ちょっと気分が落ち着いてなのか、寺町はふんわりと微笑んだ。

 「花車くん、格好いい」

 かっと顔が熱くなる感じがして、俺はちょっと息をついて、寺町の持ってきてくれた水を一口飲んだ。

 「花車くんは食事のマナーとか詳しいの?」

 「ちょっと聞いたことがあるくらいだ、別にこだわらない」

 「すごい。今度教えてよ」

 「は……?」

 「そういうところって、ちゃんとできたらいいなって思うの」

 俺は一番身近な口やかましい奴(、、、、、、、)の顔を思い浮かべた。ちょっと席を立とうとした旦那を鋭く咎めるような女だ。

母の叱言(こごと)にまじめに耳を傾けるのかと思うとちょっとうんざりする。けれどもそれ以上に、どうやら俺は単純な性格らしく、女子に頼られているかのようなこの現状が、まんざら嫌というわけでもなかったりする。

 「冷めるぞ」と促して頬張ると、「がっつりいくんだね」と寺町はどこか見守るように微笑んだ。なるほど確かに、人前での食事にはちょっとストレスがある。