どれくらいの時間が経ったものか、寺町が「あれあれ?」といった。

 「どうした花車くん、もう二十回も残ってないよ? ほら八十三」

 俺は大げさに鼻を鳴らした。「無駄口叩きすぎて息あがってんぞ」

 「そうなめてるとね、痛い目見るよ」

 八十四。そろそろどうにかしなくてはまずそうだ。

 「これでも中学からやってんだよ、素人に負けるわけにはいかん」

 「感情的に……なっちゃだめだよ、花車くん。八十五回目、返されたくらいでさ」

 「ぼろぼろじゃねえか」

 「感情的になるよりましだよ、息あがってるくらいの方がね。ほら八十六」

 「そのやかましい口は塞いどけ」

 「乱されるから?」

 「このあとの慟哭にとっておけっつってんだ」

 「ほら八十八、もうその必要はないんじゃない?」

 「調子にのってると痛い目見るぞ」

 「最初にのったのは花車くんだよ」

 まずい。どうにかこいつを黙らせる方法はないものか。寺町は間違いなくこちらのペースに慣れてきている。振り落としてやろうにも、どこへ打ったものか、考える余裕がない。喋りながら相手を振り落とすなんてのは、そもそも人間、できるように作られていないのだ。

 「八十九。どうした花車くん? これじゃあただ遊んでるだけだよ」

 あろうことか、寺町の方が俺の打ちづらいところへ返してくる始末だ。向こうがこちらのペースについてきているどころか、むしろこちらがあちらのペースについていっているくらいだ。こいつ、本当に未経験か? 女性は一度にいくつかのことをこなすのが得意だと聞いたことがあるが、こういうことなのか?

 「なにを飲むかと考えていただけだ」

 「ずいぶん悩んだねえ。最初に花車くんがやろうとした数え方じゃあ、もう終わってたよ?」

 本当に、どうにかこいつを黙らせられないものか。そりゃあ、俺が黙ればそのうちに黙ることだろうけれども、こちらから黙ったのでは、あちらにはまるで負けを認めているかのように映るだろう。それだけはごめんだ。