卓球センターが営業を再開して早々、寺町と二人でそこにいくことになった。稲葉に誘われたものの、先約があるといって断った。お幸せにと返ってきた。
寺町はひどく楽しそうだった。「ちーちゃんときたときと全然違う!」と興奮している。
「ちーちゃんって千葉のことだよな」
「そう。千葉のちで、ちーちゃん」
「下の名前じゃないのか」
「本人が気に入ってないらしくてね。いくら工夫を凝らしてもだめだったから、かといって千葉くん、なんていとこなのにおかしいでしょう? だからちょっとでも親しそうにできるようにとおもって、ちーちゃん」
「なんでそんなに自分の名前が気に入らないんだ?」
「女の子みたいで嫌なんだって」
男子で葉月なんだね、といった時本の声が蘇る。俺はただ「そうか」と返す。
「卓球って、細かいルールはどんな感じなの?」
「十一点制」といい加減に答えると、寺町は「最高だね」と笑った。
台を挟んで見てみると、寺町はとても小さく見えた。
「見てるだけじゃなんとも思わないけど、立ってみると大きいよね」と寺町もいう。
「いくぞー」と声をかけてみると、寺町は「おっしゃこい!」と過剰な気合いを入れた。
軽く打った球はそれなりの勢いで返ってきた。動きはかたいけれども、運動神経は悪くなさそうだ。
「寺町、なんかやってた?」
「スポーツ? ううん、なにも。うまい?」
「稲葉よりは」
「あたし、足はちょっと速かったよ。学年で上位になれるくらい」
「学年で?」
思わず高くなった声に、寺町は「ふふ」と笑った。
それから彼女は、思いだしたように「ねえ」といった。
「あたし、花車くんとのラリー、百回越えられると思う?」
「この調子で?」
「ううん、花車くんにちょっと意地悪されても」
胸の奥で闘争心が燃えた。
「無理だ」
「じゃあ、花車くんは不可能に一票ね」
「なにか賭けるのか?」
「帰るときに、ジュース一本。どう?」
「かまわないがおまえにとってリスクが高すぎる」
「いいや、大丈夫だよ」
寺町は「じゃあ、次にあたしが打って一回ね」といって球を返してきた。
俺は早速、極端に弱く打ち返した。寺町は小さな身を乗りだして「よっしゃ、一回!」と打ち返してきた。
「二」とカウントして打ち返すも、「これで二!」と球と一緒に返ってきた。
「生意気な」
「ほら三。この調子じゃ百回なんて余裕のよっちゃんだよ」
父がいっていたのを聞いたかどうかといったような言葉に苦笑しつつ、「絶対負かす」といって打ち返す。
「わっちはなかなかしつこいでやんすよ?」
「いいや、おまえは負ける。先に小銭があるかどうか、確認すべきだったな」
「そっちこそ」
次で六回か、と確認しつつ打ち返す。なんでもないようにその六回目の球は返ってきた。まだ十分の一にも満たない。このまま調子にのらせて、少しずつ激しくしてやろう。向こうの集中力と体力がなくなってきた頃にとどめを刺す。
寺町はひどく楽しそうだった。「ちーちゃんときたときと全然違う!」と興奮している。
「ちーちゃんって千葉のことだよな」
「そう。千葉のちで、ちーちゃん」
「下の名前じゃないのか」
「本人が気に入ってないらしくてね。いくら工夫を凝らしてもだめだったから、かといって千葉くん、なんていとこなのにおかしいでしょう? だからちょっとでも親しそうにできるようにとおもって、ちーちゃん」
「なんでそんなに自分の名前が気に入らないんだ?」
「女の子みたいで嫌なんだって」
男子で葉月なんだね、といった時本の声が蘇る。俺はただ「そうか」と返す。
「卓球って、細かいルールはどんな感じなの?」
「十一点制」といい加減に答えると、寺町は「最高だね」と笑った。
台を挟んで見てみると、寺町はとても小さく見えた。
「見てるだけじゃなんとも思わないけど、立ってみると大きいよね」と寺町もいう。
「いくぞー」と声をかけてみると、寺町は「おっしゃこい!」と過剰な気合いを入れた。
軽く打った球はそれなりの勢いで返ってきた。動きはかたいけれども、運動神経は悪くなさそうだ。
「寺町、なんかやってた?」
「スポーツ? ううん、なにも。うまい?」
「稲葉よりは」
「あたし、足はちょっと速かったよ。学年で上位になれるくらい」
「学年で?」
思わず高くなった声に、寺町は「ふふ」と笑った。
それから彼女は、思いだしたように「ねえ」といった。
「あたし、花車くんとのラリー、百回越えられると思う?」
「この調子で?」
「ううん、花車くんにちょっと意地悪されても」
胸の奥で闘争心が燃えた。
「無理だ」
「じゃあ、花車くんは不可能に一票ね」
「なにか賭けるのか?」
「帰るときに、ジュース一本。どう?」
「かまわないがおまえにとってリスクが高すぎる」
「いいや、大丈夫だよ」
寺町は「じゃあ、次にあたしが打って一回ね」といって球を返してきた。
俺は早速、極端に弱く打ち返した。寺町は小さな身を乗りだして「よっしゃ、一回!」と打ち返してきた。
「二」とカウントして打ち返すも、「これで二!」と球と一緒に返ってきた。
「生意気な」
「ほら三。この調子じゃ百回なんて余裕のよっちゃんだよ」
父がいっていたのを聞いたかどうかといったような言葉に苦笑しつつ、「絶対負かす」といって打ち返す。
「わっちはなかなかしつこいでやんすよ?」
「いいや、おまえは負ける。先に小銭があるかどうか、確認すべきだったな」
「そっちこそ」
次で六回か、と確認しつつ打ち返す。なんでもないようにその六回目の球は返ってきた。まだ十分の一にも満たない。このまま調子にのらせて、少しずつ激しくしてやろう。向こうの集中力と体力がなくなってきた頃にとどめを刺す。