甘酒を配っているテントの前は空いていて、寺町についていった俺も「いかがですか」と声をかけられた。断る理由もなく、受けとった。

 寺町は紙コップの中に息を吹きかけ、「ときもっちは」といった。視線の先にはお焚き上げの煙が見える。

 「ときもっちは、すごくいい人だよ」

 「そうか」

 「よく、花車くんと水月くんだけで済んだものだと思う。かわいいし」

 「……おまえだって、顔はかわいいんじゃないの」本当、顔は。

 「ときもっちは性格もいい。ちょっと自分の魅力には自信ないけど、でもそれ以上に明るいし優しいし、しっかりもしてる。花車くんが惹かれるのも納得だよ」

 紙コップを口元に運び、ふと気がついて怖くなる。こいつはなぜ俺が時本を好きだったことを知っていたのか。

 「わかるよ」と寺町はいった。エスパーかよ、と返す余裕もない。

 「花車くんはわかりやすい。ずっとときもっちのこと見てた」

 「……そうか」その割にあまり目が合うことはなかったな、と懐かしんでみる。

 「ねえ」と寺町はこちらを向いた。息が先ほどよりも濃くなっている。「今度、あの卓球センターで付き合ってよ」

 「……おまえには千葉がいるだろ」

 「ただのいとこといってもそんなに楽しくないよ」と彼女は笑う。こうして普通に話している分にはかわいらしい人だ。

 「ただの同級生といっても大して変わらないと思うぞ」

 「そうかな。試してみなきゃわからないよ」

 「それを俺で試すのか?」

 「嫌なら無理にとはいわないけど。よかったら付き合ってよ」

 俺は甘酒を啜り、熱い甘さを飲みこみながらちょっと考えた。やはり、わざわざ断る理由というのはない。

 「……いいけど、ぼろ負けして泣くなよ」

 「そんなにかわいい人に見える? あたし、かわいくないよ」

 「性格を見た目に寄せるよう努力するといい」

 「あれれ、嬉しいこといってくれるね」

 「俺は面食いじゃない」

 「あたしも面食いじゃないと思ってるよ」と宣言する寺町に「なんの話だよ」と苦笑する。

 「御神籤、引いてみようか」と寺町はいった。「恋愛、健康、学問……見なきゃいけない項目はいっぱいあるからね」と。