風が変わると、季節の移ろいを感じる。秋の潤んだ風が木の葉を赤く色づかせる。やがて乾き始めた風は、落葉の樹木をさらに薄着にさせる。その頃には空が悲しげに凍てつき、陽光をどこまでも響かせる。澄み渡ったそこに、薄い雲が舞うように踊るように浮かぶ。

 町から植物の彩りが減り、軽い葉がからからと風と踊る。いつしか茶色の葉も見かけなくなり、やがて町を白く染める濡れた羽が落ちてくる。その頃には風さえも凍え、ひゅうひゅうと鳴く。

その鳴き声は人々の頬や耳を切るように過ぎていき、ポケットの中でぎゅっと縮こまっていた手は、あたたかい飲みものに緊張を解く。

 隣の家から無邪気な声が聞こえ、そのあとにちょっと用事があって玄関をでて、ちらと窺ったお隣の庭に大きな雪だるまがいる。木の腕を寒空に掲げ、舞うように降ってくる雪を嬉しそうに迎えている。天からの恵みをありがたがるように、降る雪が幸せの結晶であるかのように、ただ静かに、じっと受け入れている。あるいはその姿は、たくさんの子供にわいわいと慕われる大人のようでもあった。

 でかけた先で、散歩している犬が凍った水たまりに興味を持っているのを何度か見かけた。水月が、長いリードを引きずって走ってきた犬を「よーしよしよし」といってなんでもないように受けとめ、「どうしたきみ、どこからきた?」とその犬を撫で回し始めたときには、なんだかほっこりした。水月の笑顔が、犬に負けず劣らずかわいかった。

 その犬は、中学生くらいの女の子が連れていたらしく、すぐにその女の子が駆けつけてきた。冬だというのに普通のパーカーにデニムパンツという格好だ。

 「ごめんなさい、ちょっと目を逸らしたら……」という彼女は今にも泣きそうな顔をしていた。片手には携帯電話を持っており、着信に対応する間に逃げだしてしまったのかもしれなかった。

 「きみの子?」と尋ねる水月に、女の子はちょっと顔を赤くして、「はい」とうなずくと、「チョロっていいます」と小さな声で訊いてもいないことまで話した。

水月がただの友達だったなら、このあとに水月を、あんた綺麗な顔してるもんね、なんてからかうくらいで、彼女のことはかわいらしい女の子だと思えただろうけれども、そうでないわたしにとってはほのかな苛立ちを感じさせる少女でしかなかった。

 「無事でよかった」と愛想よくいう水月にまでちょっとむっとしてしまうところがあった。

 「ありがとうございました」と深々頭をさげてリードを受けとり、水月に「お気をつけて」と見送られる彼女を、わたしは見送らずに再び歩きだした。

 あたたかみのある下駄の音が追いかけてきた。「なんか怒ってる?」という水月に「ぜーんぜん」と返す。

 「絶対ちょっと怒ってるよ。さっきの子、知り合い?」

 「知らない、あんな子。あんまり感じよくないし」

 感じよくないのはわたしの方だと痛みを伴いながら理解したとき、水月は「俺、自惚れていい?」といった。

 意味がわからず水月の顔を見返すと、彼は「はな、やきもちやいてる?」とちょっと嬉しそうにいった。

わたしはなにか体の中でぶわっとふくらむものを感じて、その勢いのままに「ああいう子って好きじゃないの」と返した。

水月はただ愉快そうに笑った。

 「じゃあ、しりとりでもしようか」

 「ええ、なんで急に」

 「はなとお話するため」

 お話、というのがなんだかかわいくて思わず笑い、わたしは「しりとり」といってみた。「りす」と返ってきて、りんごじゃないんだと思ってまたちょっと笑い、「すいか」と返した。「からす」と返ってきたのには、水月の頭のよさと意地の悪さを感じて苦笑した。

 「す、す……スキー」

 「きす(、、)

 驚いたのと意地悪したくなったのとでしばらく黙ってから、「魚の?」と尋ねてみる。

 「魚、の……。魚の」

 どことなくいいわけっぽい声に横顔を窺うと、冷えた空気のせいか頬が赤らんでいるように見えた。