とにかく、わたしの絵には少なくとも癖があるらしい。特に想像画はそれが顕著だという。
さんざん話し合った結果、とにかくいろんなものを描いてみるということに落ち着いた。こんなことを何度繰り返しているかわからない。ふと不安になって、水月を巻きこんで話し合って、いつもと同じところに戻ってくる。
これがわかっているのならもう時間の無駄だし不安になんかならなければいいのにとも思うのだけれど、心というものを操れるほど、わたしは立派な人じゃない。
水月は「大丈夫だよ」といってくれた。「とにかくその時々、最高のものを描こう」と。
「画展を開くとき、そのときに一番魅力的なものを選べばいい」
ただ、描きたいものを描いた。好きなものを描いた。
水月の手を、庭や町に咲く花を、心の中に浮かんだ風景を、公園で見かけた心惹かれる一場面を、描きたいように描いた。のせたい色で、思うままの勢いで、使いたい筆で、描きたいものを描いた。心が惹かれるものを描いた。
てらちゃんは今までと変わらずに、わたしと一緒に学校での時間を過ごした。やんすやんすとかわいらしく話した。
「それで」とわたしはいってみた。
「花車に告白はしたの?」
てらちゃんは途端におとなしい顔になった。
「だって……そうそう勇気なんかでないでやんすよ……」
ふと、てらちゃんは「あっ」といって目を輝かせた。
「でもでも、あれだよ、夏休みにさ、あたし、駅前の卓球センターにいったのね」
「駅前……」
このあたりに駅なんかあったっけ、と思うのと同時に、卓球センターなる場所がどんな場所なのか、まるで頭に浮かばない。
「そしたら、花車くんがいたの!」
「へえ、すごいじゃん。誰と?」
「稲葉くん。二人とも卓球部だからね」
「へえ、部活以外でもやってるんだね」
あんな感じでも、意外と熱い奴なのかもしれない。
ふと、葉月ともうしばらく話をしていないのに気がついた。席が隣だったうちから、会話が減った。てらちゃんの気持ちを知って、わたしから避けたのが始まりだった。ここずっと学校生活がなんだかだらんとした感じなのは、葉月とのくだらないいい合いがなくなったせいかもしれない。
ちょっと探してみて視界に現れた葉月は、その稲葉くんと親しげに話している。そうしながら、ふとこちらを向いた。
あれが水月のきょうだいか、と改めて思うと、なんだか妬ましいような気持ちにもなってくる。けれども、彼のおかげで水月に出逢えたのだと思うと、なんだか尊いような、ありがたい存在のようにも感じられてくるから不思議だ。
わたしは二度目にこちらを向いた葉月から、てらちゃんに向き直った。
「卓球センターでの花車はどんな感じだった?」
「全然あたしたちに気づいてない感じ」
「誰といったの?」
「なんて呼んであげようかなあ」といたずらっぽく笑うてらちゃんの様子で、「千葉さんの弟だ」とわかった。「御名答っ」とてらちゃんは手を叩く。
「あたし、ちょうど隣の台だったから、わざと大きめの声で喋ったりもしたんだけど、花車くんは全然。最後、外にでてからやっと、稲葉くんが話しかけてくれた感じで」
てらちゃんは水筒の蓋を開け、「脈ないのかな」と悲しそうに困ったように笑った。
「そんなことないと思うよ」と、わたしはそれなりの根拠を持って答えた。
「さっき見てたら、花車、こっち向いたけど全然目が合わなかった。てらちゃんのこと見てるんじゃない?」
そしてなにより、あいつはもう、水月に酸素を返したのだ。恋をしない理由は、もうない。
さんざん話し合った結果、とにかくいろんなものを描いてみるということに落ち着いた。こんなことを何度繰り返しているかわからない。ふと不安になって、水月を巻きこんで話し合って、いつもと同じところに戻ってくる。
これがわかっているのならもう時間の無駄だし不安になんかならなければいいのにとも思うのだけれど、心というものを操れるほど、わたしは立派な人じゃない。
水月は「大丈夫だよ」といってくれた。「とにかくその時々、最高のものを描こう」と。
「画展を開くとき、そのときに一番魅力的なものを選べばいい」
ただ、描きたいものを描いた。好きなものを描いた。
水月の手を、庭や町に咲く花を、心の中に浮かんだ風景を、公園で見かけた心惹かれる一場面を、描きたいように描いた。のせたい色で、思うままの勢いで、使いたい筆で、描きたいものを描いた。心が惹かれるものを描いた。
てらちゃんは今までと変わらずに、わたしと一緒に学校での時間を過ごした。やんすやんすとかわいらしく話した。
「それで」とわたしはいってみた。
「花車に告白はしたの?」
てらちゃんは途端におとなしい顔になった。
「だって……そうそう勇気なんかでないでやんすよ……」
ふと、てらちゃんは「あっ」といって目を輝かせた。
「でもでも、あれだよ、夏休みにさ、あたし、駅前の卓球センターにいったのね」
「駅前……」
このあたりに駅なんかあったっけ、と思うのと同時に、卓球センターなる場所がどんな場所なのか、まるで頭に浮かばない。
「そしたら、花車くんがいたの!」
「へえ、すごいじゃん。誰と?」
「稲葉くん。二人とも卓球部だからね」
「へえ、部活以外でもやってるんだね」
あんな感じでも、意外と熱い奴なのかもしれない。
ふと、葉月ともうしばらく話をしていないのに気がついた。席が隣だったうちから、会話が減った。てらちゃんの気持ちを知って、わたしから避けたのが始まりだった。ここずっと学校生活がなんだかだらんとした感じなのは、葉月とのくだらないいい合いがなくなったせいかもしれない。
ちょっと探してみて視界に現れた葉月は、その稲葉くんと親しげに話している。そうしながら、ふとこちらを向いた。
あれが水月のきょうだいか、と改めて思うと、なんだか妬ましいような気持ちにもなってくる。けれども、彼のおかげで水月に出逢えたのだと思うと、なんだか尊いような、ありがたい存在のようにも感じられてくるから不思議だ。
わたしは二度目にこちらを向いた葉月から、てらちゃんに向き直った。
「卓球センターでの花車はどんな感じだった?」
「全然あたしたちに気づいてない感じ」
「誰といったの?」
「なんて呼んであげようかなあ」といたずらっぽく笑うてらちゃんの様子で、「千葉さんの弟だ」とわかった。「御名答っ」とてらちゃんは手を叩く。
「あたし、ちょうど隣の台だったから、わざと大きめの声で喋ったりもしたんだけど、花車くんは全然。最後、外にでてからやっと、稲葉くんが話しかけてくれた感じで」
てらちゃんは水筒の蓋を開け、「脈ないのかな」と悲しそうに困ったように笑った。
「そんなことないと思うよ」と、わたしはそれなりの根拠を持って答えた。
「さっき見てたら、花車、こっち向いたけど全然目が合わなかった。てらちゃんのこと見てるんじゃない?」
そしてなにより、あいつはもう、水月に酸素を返したのだ。恋をしない理由は、もうない。