なんてこと、なんて、実際に口にだしたのは初めてだった。映画や小説では聞いたり見たりしたことがあるけれど、実際に自分がそういったことは、これまで一度もなかった。
けれども、なんてこと、というよりほかにないようなできごとに遭遇した。
友達だと思っていた。あるいは、夢を現実にするという、確約された未来へ一緒にいく人だと思っていた。わたしは、そんな相手を「友達」と呼びたかった。けれども、相手はそれを否定した。
わたしにとってあなたは友達ではないといった。一人称は俺だったし、二人称はわたしの名前のはなであったけれど、とにかく、彼はわたしを友達だと思っていなかった。
なんてこと、というよりほかになかった。
しかも相手はそれで満足するような人ではなかったらしく、わたしに恋しているとまでいった。これで自惚れることができたならどんなに幸せだろう。わたしにだって自惚れる才能はある。けれども今回の場合、自惚れる余裕がない。
相手がもっとずっと親しくしていて、自分と共通点の多いような人だったなら、それはもう、わたしの自惚れ才能が遺憾なく発揮される絶好の舞台だ。けれども、違う。水月は違う。
互いに相手のことなんてほとんど知らず、知人を通じて知った事柄をきっかけに、わたしが一方的に接触しただけのこと。彼の絵を見たかったわたしが彼の絵を見て、画家になりたかったわたしが彼を巻きこみたくなっただけのこと。
絵の腕を磨こうと思ってわたしが誘ったのをきっかけに土手で会うことが日課のようになっているけれど、腕は磨けずにいる。
それだけの相手に、どうして恋なんてできよう。
いたずらとしか思えない。突拍子もないことをいってみたとき、こいつはどんな面をするだろうという意地の悪い好奇心に駆られた彼が、ちょろっと冗談をふっかけてきたのに違いない。
迷惑だというのならわたしの前から立ち去るといった。それはそうだろう。わたしの反応を見てみたかっただけなのだから、そのあとのことになんて責任は持てない。彼はわたしの前から立ち去りたいに決まっている。
ははん……。
そんなことさせてなるものか!
認めない。わたしは認めない。
残念ながら、わたしはそれなりに自覚できるくらいには性格が悪い。こんなつまらないいたずらをふっかけられて、「ばかじゃないの、迷惑だから消えてちょうだい」なんて優しい言葉をかけてあげられるような人間じゃない。
いっそ、本当に自惚れることができたなら、どんなに幸せだろう。
わたしってばこんな格好いい男の子に告白されるくらい魅力的なんだわ!と思うことができたなら、そのいたずらを真に受けて、「わたしも……水月のこと、好きだった……」とかなんとかいって、収拾のつかないようにしてやることもできた。
けれどもあいにく、わたしには、あんな状態であんな人にあんなことをいわれて舞いあがれるほどの魅力はない。そんなことないなんていう人がいたなら、その人はよっぽどの物好きさんか、よっぽどの皮肉屋さんだ。
わたしは枕に顔をうずめた。
違う。そういうことではない。
わたしは一瞬間、水月の言葉を真に受けた。
あんなにぺらぺらと自分の恋愛観を喋り散らしたのに、それ以外の理由なんてない。
ええ、あなたの好意は嬉しいのだけれど、わたしにとって恋愛っていうのは……といっているのにほかならない!
ああ、なんてことをしてしまったのだろう。
わたしは自惚れるということに関しては天才かもしれない。自惚れ選手権でもあれば間違いなく輝ける。
認めたくはない。けれどもわたしは、確かに、水月の言葉を真に受けた。そして自惚れた。
こんな自惚れる能力じゃなくて、吐いた言葉を飲みこめる能力がほしい。
けれども、なんてこと、というよりほかにないようなできごとに遭遇した。
友達だと思っていた。あるいは、夢を現実にするという、確約された未来へ一緒にいく人だと思っていた。わたしは、そんな相手を「友達」と呼びたかった。けれども、相手はそれを否定した。
わたしにとってあなたは友達ではないといった。一人称は俺だったし、二人称はわたしの名前のはなであったけれど、とにかく、彼はわたしを友達だと思っていなかった。
なんてこと、というよりほかになかった。
しかも相手はそれで満足するような人ではなかったらしく、わたしに恋しているとまでいった。これで自惚れることができたならどんなに幸せだろう。わたしにだって自惚れる才能はある。けれども今回の場合、自惚れる余裕がない。
相手がもっとずっと親しくしていて、自分と共通点の多いような人だったなら、それはもう、わたしの自惚れ才能が遺憾なく発揮される絶好の舞台だ。けれども、違う。水月は違う。
互いに相手のことなんてほとんど知らず、知人を通じて知った事柄をきっかけに、わたしが一方的に接触しただけのこと。彼の絵を見たかったわたしが彼の絵を見て、画家になりたかったわたしが彼を巻きこみたくなっただけのこと。
絵の腕を磨こうと思ってわたしが誘ったのをきっかけに土手で会うことが日課のようになっているけれど、腕は磨けずにいる。
それだけの相手に、どうして恋なんてできよう。
いたずらとしか思えない。突拍子もないことをいってみたとき、こいつはどんな面をするだろうという意地の悪い好奇心に駆られた彼が、ちょろっと冗談をふっかけてきたのに違いない。
迷惑だというのならわたしの前から立ち去るといった。それはそうだろう。わたしの反応を見てみたかっただけなのだから、そのあとのことになんて責任は持てない。彼はわたしの前から立ち去りたいに決まっている。
ははん……。
そんなことさせてなるものか!
認めない。わたしは認めない。
残念ながら、わたしはそれなりに自覚できるくらいには性格が悪い。こんなつまらないいたずらをふっかけられて、「ばかじゃないの、迷惑だから消えてちょうだい」なんて優しい言葉をかけてあげられるような人間じゃない。
いっそ、本当に自惚れることができたなら、どんなに幸せだろう。
わたしってばこんな格好いい男の子に告白されるくらい魅力的なんだわ!と思うことができたなら、そのいたずらを真に受けて、「わたしも……水月のこと、好きだった……」とかなんとかいって、収拾のつかないようにしてやることもできた。
けれどもあいにく、わたしには、あんな状態であんな人にあんなことをいわれて舞いあがれるほどの魅力はない。そんなことないなんていう人がいたなら、その人はよっぽどの物好きさんか、よっぽどの皮肉屋さんだ。
わたしは枕に顔をうずめた。
違う。そういうことではない。
わたしは一瞬間、水月の言葉を真に受けた。
あんなにぺらぺらと自分の恋愛観を喋り散らしたのに、それ以外の理由なんてない。
ええ、あなたの好意は嬉しいのだけれど、わたしにとって恋愛っていうのは……といっているのにほかならない!
ああ、なんてことをしてしまったのだろう。
わたしは自惚れるということに関しては天才かもしれない。自惚れ選手権でもあれば間違いなく輝ける。
認めたくはない。けれどもわたしは、確かに、水月の言葉を真に受けた。そして自惚れた。
こんな自惚れる能力じゃなくて、吐いた言葉を飲みこめる能力がほしい。