田中君と初めて話したのは、二年生の秋のことだった。

「学園祭の、展示物が間に合わない」

その日、無理やり美術室へ足を運んだ私は、気怠い顔をして、でこぼこの机に頭を突っ伏せた。

「ごめんな。教室、ほぼ準備で空いてない。後、家庭科室今日調理で使うみたいだからここでして」

美術件技術の教員で、私の担任でもある寺井先生が、絶対に悪いと思っていない口調で、嘲笑しながらミシンとソーイングセットを持ってきてくれた。

「まあ、家でやっても別にいいんだけどな」

先生がボソリと呟く。

それは絶対嫌だと思いながら「ここでやります」と言い切った。

「あ、そう。じゃあ頑張って」

心のこもってないエールを送ってすぐに、先生は「もう一人居残りがいるから」と言ってせわしなく部屋を出て行ってしまった。

私の学校は、高校生になってまで学園祭に作品展がある。私はそれの期限に間に合いそうになくて、今、居残りさせられている。

同じグループの友達は皆お喋りしながら適当な物を作っては要領よくノルマをクリアしていた。

同じようにやってきたつもりなのに、たまたま体調不良が火曜日に重なって、二度授業を休んだだけで居残りだなんて、実に憂鬱な気分だった。

軽い気持ちで選んだ選択科目で、まさか居残りさせられるとは思っておらず、木とニスの匂いが混ざった部屋で、こんなことなら書道のほうを選べば良かったと、一人溜め息を吐いていた。

頬杖を付き、一応、本当に一応持ってきた教科書をパラパラ捲りながら、どんなものなら簡単で見栄えよく作れるか考えていると、ガラリと扉が開き、咄嗟にそちらに目をやった。

瞬間、私の、教科書を支えていた指の力が緩み、半開きだった教科書がパタリと音を出して閉じた。

なんと、あの噂の田中君が入ってきたのだ。