「10月23日は、絶対に私のために空けといてね?」



そう、菖悟さんの大きい背中に巻きついて、後ろから顔を覗き込んだのは、1ヶ月以上も前のこと。


バスローブ1枚きり、同じシャボンの香りをさせているこの時間は、菖悟さんは私だけのものだと、思えるから好きだった。



「わかった。緋奈子のために空けとくよ。
26回目の誕生日だっけ?なんでも好きなこと、考えといて」



世間からは後ろ指をさされるような私たちの関係。

不倫は外で会えない、なんてよく聞くけど、私たちは、不動産の営業とアシスタントの立場を使って、外でも気にせず一緒にいられる。


四六時中一緒にいても不信に思われないくらいに、ペアになって行動するのが当たり前で。



ただ、ふれられないだけ。
仕事着以外では、一緒に外を歩けないだけ。



だから、なんでも好きなこと、って言われても、考えるのは、どんな風に、ホテルまでの時間を盛り上げるかと、どんなことをして、ホテルで盛り上がろうか、が大半。


もちろん本音は、堂々と、外の世界でも恋人でいたい。寄り添って、手を繋ぎたい。抱き合いたい。

時にはそれ以上のことだってしたいけど、今はまだ、我慢のとき。



どんなに菖悟さんに私がいちばんだって言われても、私にはない、妻という唯一の権限をもってる奥さんがうらやましくて。だけどいつの日か、その権限をもらうために、波風は立てない方がいい。


法律的にも、菖悟さんのいちばんになるためだと思ったら乗り越えられた。




それなのに、突然。



「ごめん。その日は結婚記念日だったみたいで。妻が子どもを実家に預けて旅行いこうって、既に全て手配してくれてたみたいなんだ。来週に延期でもいいかな?」




あっさり、LINEひとつでリスケされてしまった。