「ご、ごめん」


陵介先輩もいるのに周りがよく見えてなかった。


「いやいや、イチャつくくらい親しくなったってことだろ。俺はやっと千春ちゃんと昂良が元サヤに戻ってくれて嬉しく思ってるけどね」


野菜マリネと煮込みチキンをお皿に取り分けて、私と昂良先輩に手際よく一つずつ手渡しながら、ニコニコと話す陵介先輩。


『元サヤ』というには若干違和感があるけど、陵介先輩にまでそう思われていたということは、付き合ってないと思ってたのは私だけだったんだと、いまさら自分の鈍感さに項垂れてしまう。


「まあ、そもそもみんなそれぞれの勘違いから拗れたんだもんね。やっと収まるところに収まったって感じじゃない?」


せっせと料理を取り分ける陵介先輩の隣で、ロール寿司をパクパクと口に運び、ひたすら食べながら話す美香。
いつもの光景だけど、相変わらず嫌な顔せず妻に尽くす愛妻家だと見ていて微笑ましい。


「美香のところは初めから収まってたでしょ」

「そんなことないよ。もともと私たちも千春と昂良先輩から始まった関係だから……なんていうか、二人がくっついてくれてたからこその私たちってのもあったんだよ」

「どういうこと?」


初めて聞く話かもしれない。
単にあの頃、拗れた二人がくっついて長い付き合いから結婚したんだと思ってた。


「ずっと四人で行動してたのに、ある時から千春は昂良先輩と二人で動くようになったでしょ。てっきり付き合ったと思ってたから。だから残された者同士でってなったのよ」

「それはないでしょ。美香たちも私たちと関係なく別行動取ってたよね」

「んー、だからそれは」

「あー……ごめん。ちょっといいかな?」


ヒートアップしそうな美香と私の会話に割って入った陵介先輩。
気まずそうな顔で止めに入ると、昂良先輩と視線を合わせて二人とも困惑している。


「えっと……今だから言うけど、初めからそのつもりで行動してたから」

「何が?」

「だから、初めから俺は美香で昂良は千春ちゃん目当てで遊びに行ってたんだ」

「……初めからって?」


美香も私もよく分からないと言った顔で二人を交互に見た。


「二人が珈琲研入ってしばらくして、昂良が千春ちゃんのこと可愛いって言うから、俺も美香のこと気になってたし、じゃあってことで四人で遊びに行こうって誘った時から……。な、なぁ昂良」


特に怒ってるわけでもないけれど呆然とする美香を気にして、助けを求めるように昂良先輩にバトンタッチした陵介先輩。


突然振られた昂良先輩は一瞬驚いた顔を見せたものの、少し髪をかき上げて口を開いた。