チンッとグラスの端を軽く合わせて、少しだけ口に含んでからみんなで再会の喜びを分かち合った。


『二人の交際』とあらためて祝われると気恥ずかしいけれど、この場にこうして昂良先輩の彼女として一緒にいられるのが何より嬉しい。


そして美香の作ってくれた料理に舌鼓を打ちながら、昂良先輩が持ってきたお祝いの品を渡すと二人とも喜んでくれていた。


ひとつは簡単に掃除ができる全自動のコーヒーメーカー。そしてこだわりコーヒー豆。
さらに引っ越し祝いには部屋に合うようにと絵画と、結婚祝いにギフトカタログを渡していた。


「出産祝いは産まれてからまた渡すよ」

「こんなにいっぱい、ありがとうございます!」

「なんか悪いな。久しぶりに会ったってのに、こんなにしてもらって」


陵介先輩は受け取った贈り物を前に申し訳なさそうにしている。
そしてその中にあるコーヒー豆を手に取り、じっくり眺めていた。


「それにしても昂良は相変わらずコーヒー好きだな」

「ああ、俺の唯一の癒しだからな」

「唯一って、そんなこと言ったら千春ちゃん怒るかもよ」

「ん?あ、千春はーー」


苦笑いしながらそんな会話をしているところへ、私は静止するように手のひらを陵介先輩に向けた。


「いいんです陵介先輩。このあと昂良先輩がどう言うか分かってるんで」


そう言うと横目で私を見た先輩。


「……へぇ、じゃあ俺がなんていうか言ってみろよ」


手に持ったスパークリングワインを一気に飲み干し、私の言葉にフフンと鼻を鳴らすように意地悪そうに煽ってきた。


どうせ冗談しか言わないんだから、何を言うか検討くらいつくわよという思いでこう提案した。


「いいですよ。じゃあ同時に言いましょ。せーの」

「千春は癒しじゃなくて『卑しい』だ」
「千春は癒しじゃなくて『愛しい』だな」

「え?」


言葉が重なったのは分かったけれど、自分の言った言葉と少し違ったためキョトンとしてしまった。


「今なんて言いました?」

「さあな」

「え、もう一回言ってください」

「やだよ」

「言ってくださいってばっ」


先輩の言うことはだいたい分かってきたつもりだけど、照れ隠しで嫌味なことばかり言ってくるものだと思っていたのに。
聞き間違いじゃなければ『愛しい』って聞こえた……。


「ちょいちょい、あのさ私たちの前でイチャつくのやめてくれない?」

「こ、これのどこがイチャついてるのよ」


私たちの様子を眺めていた美香が、頬杖をつきながら目を細めて呆れていた。


「じゃあ、ジャレないでよ」

「だからこれのどこが――」


冷静になってよく見ると、昂良先輩の腕にしがみついて体を寄せていた。
確かに傍から見るとジャレている……いや、イチャついてるようにしか見えない。