特にお兄様は厳しくて、私に「外には連れて行けない」「外では北大路を名乗るな」と、厳しく言われ続けていた。

邪魔だったら追い出せばいいのに。そう思っているが、私がこの家を出ることは何故か許してくれない。

対外的には隠されている存在ではあるのだが、親は私を可愛がってくれている。血の繋がらない私に、沢山の愛をくれている。それは本当だった。

それを振り切ってまで、この家を出ていく勇気はない。それだけのこと。


だから私は、精一杯の恩返しをしてから出ていこうと決めている。
例えば──"政略結婚の駒"として。

そんなことをずっと思っていたのだった。


今日もまた、家にはお兄様以外の気配はない。
まだパーティーから帰ってきていないのだろう。

「お父様とお母様は、まだお戻りではないのね?」
「あーそうだな、可哀想だよなぁ。あんな狸じじいの話に付き合わされてなぁ」

今日は二人とも、取引先のパーティーに呼ばれている。お兄様も行くと行っていたので、恐らく途中で抜けてきたのだろう。私は当たり前にお留守番なのだが。

はぁ、とため息をついてくしゃっと髪をかき上げる様子は、完璧な会社での顔と少し違う。
『完璧』だと言われている彼のこんな面を見れるのは、妹である私の特権なのかもな、と少し嬉しい気持ちにはなるのだ。