「ただい……ま」

家の門を開けると、時刻は九時をほんの数分回っていた。
恐る恐る玄関のドアを開け、そろーっと廊下を歩く。


「お帰り」
後ろから声をかけられ、びくっと震える。


「ただいま……お兄様………」
ゆっくり振り向くと、お兄様がムスッとした顔で立っていた。
さっきの笑顔とは、大違い。

「何でいつの間に帰ってるんだ?」
「いや、だって聞いてなかっただけじゃないですか。ちゃんと部長は『お疲れ様』って言ってくれましたよ?社長」

そう、お兄様と呼んでいるのは、私の義兄である北大路 浩之。
──そう、あの社長なのだ。


「何処行ってたんだ?」
「大学の時の友達と会ってたの」
「今何時だ?」
「九時ちょうどに帰ってきたので、今は少し回っているかも」

へへっと笑ってみせると、大きなため息をつかれる。

「別に遅くなったら連絡くれればいい」

いやそれはあなた即効迎えに来ますよね!
九時過ぎて家に居なければ鬼電しますよね!