そしてそのまま、私は北大路家に連れて行かれることになった。

私の荷物は段ボールにまとめて、車の中に入れられた。
全ての荷物をトランクに詰め込んだ後──お母様は私を抱き締めて、泣いていた。

「今までのことは全部忘れなさい。私達が絶対に、あなたを幸せにするから」

私は今まで泣けなかった。
だけどこの人は、今まで泣けなかった私の分まで泣いてくれているように思った。
だから絶対、この人を裏切ってはいけないと思ったのだ。

そして車は北大路家に到着する。


「あなたは今日から、ここのうちの子よ」

この時から、私の人生が始まったのだった。




「私の初恋は、お兄様だったの」

あの花冠を被せてくれた時、本当に『王子様が来た!』と思ったのだ。
その通り、怖かった世界から私を連れ出してくれた、正真正銘の王子様だった。


「じゃぁ初恋の人と結ばれたわけか。奇跡じゃん」

あぁ、そうか。
私はあの王子様と──結ばれたのか。

お兄様を見つめると、あの頃と変わらない姿に笑みが漏れる。
するとそっと抱きよせられて、頬にキスが落ちてくる。


「記憶が戻らなくても、変わらず結婚してくれる?」

きっと私は、この人以外に結婚したい人は居ない。
そう確信できた。

頷くと、更に強く抱き締められる。


「お兄様……」
「結婚するんだから、その呼び方は改めて」

手を解くと、目を見つめて名前を呼んだ。

「浩之さん」

照れたように頬を染める姿は可愛くて。
いつもの澄ました感じより、ずっとこの方がいい。

回りを見ると、子供達が私を見つめていた。
急に恥ずかしくなってしまい、急いでその場を去ることにした。
しっかりと二人で、手を繋いで。