お兄様と初めて会ったのは、実の両親が事故に遭う少し前のことだった。

「浩之お兄ちゃんよ。仲良くしてね」

そう紹介されたお兄様は、すごくかっこよくて……私は王子様に見えた。
一緒に遊ぼうと誘われたけど、私はすごく恥ずかしくて、一人でお花を黙々と摘んでいた。

「はい、これ」
お兄様は私が摘んでいたお花──野原に咲いたハルジオンを、自分も摘んで差し出してくれた。

「これどうするの」
「おひめさまになりたいの」
「おひめさま?」
「そう、お母さんが花をぐりぐり巻いたのを作ってくれて、おひめさまにしてくれたの」

お兄様は少し考えて、「花かんむりね」と。

その後二人で花冠を一緒に作った。
一緒に作るうちに仲良くなったが……完成させることはできなかったのだ。

そして帰り際、お兄様は私の頭を撫でながらこう言った。

「次に会う時に、ちゃんとしたのを作ってあげる」

その時の優しい笑みが、ずっと忘れられなかった。
次に会える時が、すごく楽しみになった。



だけどそれからしばらくして──私が幼稚園に行っている間に、実の両親は事故に遭った。
そして私一人が残されてしまった。

幼い私を尻目に、親族は金金金……ひたすら金の話しのみをしていた。
父がいくつか特許を持っていて、その権利をどうするかで揉めていたのだった。

二人の葬儀が終わっても、身内同士での怒鳴り合いが続く。
そしていつも行き詰まると──矛先は私にむいた。

「どうせこの邪魔な子は施設に……」