「いや、小説とか文学系とかは……?」
「あぁ、これも大学時代読みました」
「……アラビア語?」
「はい」

お兄様はうーん、と頭を抱えている。
変わった趣味、とでも言いたいのだろうか。

「外国語が、好きなの?」
「そうですねぇ、やっぱり多言語の勉強は面白いから好きですね」
「じゃぁ海外に留学とか行ったの?」
「いえ、行きませんでした」

せっかくだ。この話はしてもいいだろう。

「中学の修学旅行がニュージーランドだったんですよね。でも帰りに飛行機がストライキに巻き込まれて、すごく大変でした。それで懲りたんです」

帰る直前、運悪くストライキに巻き込まれ、予定していた飛行機は飛ばなくなってしまった。学校側が対応に走り回っていて、非常に心細いまま数日間を過ごしていた。
結局三日遅れで、随分遠回りになったけれど日本には帰ってくることができた。

ぐったりして帰国すると──空港では、なぜか寮に居るはずのお兄様が迎えに来ていた。


「おかえり、怖かったか?」
「……うん」

するとお兄様はそっけない表情のまま、頭にポンと手を置いた。

「何かあったら、俺が守るから。俺が何がなんでも駆けつけて守るから、もう遠くへは行くな」
頭を撫でる手は、心細かった私の心を暖めてくれた。