翌日。
お兄様は、他に異常はないとのことで、家に帰ってきた。家に居た方が思い出す確率は高いだろうと。

だが家の間取りなどは覚えていても、やはり"人"の記憶はダメらしい。


「持ってきましたよ」
私はお兄様の部屋に、幼い頃のアルバムを持ってきた。
思い出話でもすれば、思い出すのではないかと考えたのだ。


「どうですか……?」
「うーん、見覚えがあるかって言われたら……うーん……」


お兄様は神妙な顔をしながらアルバムを見ている。
どうやら効果は無いらしい。


「あ、これ可愛いね」
指差したのは、幼い私がケーキを頬張ってる写真だ。

「恥ずかしい……これお兄様のケーキを奪って食べているところだ……」

確かお兄様の誕生日。
私はどうしてももう一つケーキが食べたくて、お兄様の食べ掛けを横取りした。主役であるのに。
でもお兄様は怒るわけではなく、ニコニコしながら見ていたのを覚えている。


「あ、これもすごくいい」
「これは遊園地で、お兄様に無理言って一緒にメリーゴーランド乗ってもらってる所ですね」

写真で見る昔のお兄様は、優しい眼差しで私を見つめていた。
今は、過保護ではあるけれどそっけなさの方が勝っている。でもわかりやすく溺愛してくれたよな……と、昔の姿を思い出す。


「あの、これって、何でめっちゃ泣いてるの?」
「えっとこれは、お兄様の中学の入学式ですね。全寮制の中高一貫校に通っていたんで、離れたくないって泣いてる所です」

お兄様は地方の名門校に進学し、中高は寮生活をしていたのだ。