「恐らく一時的な健忘なので、そのうち思い出すと思いますよ」との説明だったが、思い出す明確な時期はわからないらしい。

医師からの説明が終わると、私達は再びお兄様の病室に向かった。

「えっと、あなた達は私の家族なんですよね?」
「そうだ私が父の忠弘、こっちが母の綾だ」
「それで……そこのすごく可愛らしい御方は?」
(えー……)

お兄様は照れた表情で、私を差す。
いや照れるって何事?!と動揺する。

「私は義理の妹の遥で……」
「浩之の婚約者だ」
お父様が間髪入れずそう言った。

確かに、合ってはいる。
合ってはいるけど……!何か違うだろ!と。

「遥は事情があってうちで引き取った子だが、お前が遥との結婚を望んだんだ」
(えっ?)

つまりこの結婚を望んだのは、お兄様だった、という訳なのか……?

記憶がないお兄様は、ぱあっと花が咲いたような笑顔をする。


「そうだったんですね!そりゃこんなに可愛らしい子を手放したくないでしょう」

今まで「外に連れて行けるわけないだろ」と私を貶して一掃していたのは誰なんだ、と。


「よろしく、フィアンセ殿」
私の手を取ると、そっと甲に口付けされる。
そして見たこともない、甘い顔で微笑んだ。

──いや、この顔でこの笑顔は反則だ!
心臓がバクバクと、煩い音で鳴り続けていた。