その後すぐに救急車は到着し、お兄様は病院に運ばれた。
家族全員集まり、お兄様の処置が終わるの待つ。


「とりあえず、異常無しですね」

医師からCT画像を前にそう言われ、三人ともほっとした。


「いやしかし、顔面激突して鼻の骨が折れてないのは良かったですねぇ」

ははは、とひきつった顔を隠せない。
実はお兄様はトラックと衝突した……訳ではなく、勢い余って電柱に突っ込んだのだった。


軽い脳震盪を起こしていたみたいだが、もう意識も戻り大丈夫だろうと。
怪我は顔に擦り傷のみだが、念のため一泊はするとのことで、私達はお兄様の病室に向かった。


「失礼します」

お兄様は個室のベッドに座っていた。
隣には看護師さんが居る。


「あの、お兄様……」
ともかく、お礼を言わなきゃいけない。
だけどお兄様は、何故か怪しげな視線を私に向ける。

しまった。これは怒っている。どうしよう。
そう思っていたが──意外な言葉を口にした。


「失礼ですが、どなたでしょうか?」




「検査結果ですが、記憶が抜け落ちているのは"人"に対してのみみたいですね」

すぐさまお兄様は検査されたが、自分の名前も言えるし、計算もできる、文字の読み書きもできる。
何ら異常は見られなかった。
だけど、人物に関する記憶──両親や家族の顔や名前、友達や同僚について がすっぱりと抜けてしまっているらしい。