お兄様は、更に顔を迫らせてくる。
(何の話?!)

本当に心当たりはない。ぐいぐい迫ってくるが顔を背けると、お兄様は壁を『バンッ』と叩く。

「俺は待ったぞ。もう"お兄様"は終わりにさせたい」

もう一度、顎をクイットと持ち上げられる。
私を見る目は、知ってるようで……まるで違う表情をしていた。
──奥に情熱が宿った鋭い目。


「遥!」
(何で?!)

お兄様の豹変に頭がついていかない。
全てから逃げ出したくて、全部を振り払って走って行く。


「遥……!」

後ろからお兄様が追いかけてくる。
でも追い付かれないように、全力で走る。

スリッパのまま廊下を走り、玄関を飛び出した──その瞬間だった。


「危な……!」
ププーと大きなクラクションが響く。
振り向くと、大きなトラックが走ってくる。


「おにぃ……」

そのままお兄様は──私を突き飛ばした。
急ブレーキの音が響き、振り向くと……そこには倒れているお兄様の姿があった。