二人で車まで戻る。無言のままエンジンが掛けられ、理人さんが車を発進させた。その間二人とも一言も口をきかなかった。私は聞きたいことがまだ山積みだったけれど、なんとなく声を出すことが気まずかった。

 真っ暗になってしまった道を車がどんどん進んでいく。静かな道の赤信号で一旦停止したとき、理人さんが言った。

「というわけで、父があなたのおじいさまに恩がある、というのは事実です。父にとっては、うちの会社がここまでこれたのはそちらのおかげだと思っている。だから、あなたの会社を立て直せるならいくらか支援するくらいどうってことないと思っていたんです。あとはまあ、五十嵐は昔から優秀な人材も人脈もあるので、そういった点でもこちらに利益がある、というのも正直なところです」

「そうだったんですね、私、ひねくれた考え方をしていて……」

「いいえ、詳細を伝えておけばよかったんです。すみませんでした。
 ところで京香さん、先ほどあなたが言っていた話を聞くに……父親が再婚した後、散財が酷くなった、という点ですが。気になってましたが、家族と折り合いが悪いのですか?」

「……」

「あなたの妹さんが半分しか血がつながっていない、というのは実は知っていたんです。その点で、あまり仲がいい姉妹でないというのは安易に予想がついていました。梨々子さんはどこかあなたに敵意を持っていましたし……ただ、仲がよくない、という言葉では片付けられないほどなのかと。
 不思議に思ってたんですが、あなたは私と出かけるのにお母様の形見という大事な服を使っていた。もしや、使わざるを得なかった?」

 理人さんがこちらを見た。どこか鋭い視線で、私を追求するように見つめられる。

 信号が青に変わった。彼はそのまま車をゆっくり動かしていく。

 静かな車内で、私は事実をそのまま述べた。

「母が生きていた頃から不倫して外に作っていた家族を受け入れろと言われて、強く反発したんです。結局反対を押し切って再婚したんですけどね。こっちもかなり可愛げのない態度を取り続けたので、あっちも当然のように攻撃してきました。
 使ってた部屋は追い出されて物置みたいな場所に移動させられたし、持ってた私物もよくとられたり捨てられたりで……それは母の形見もそうでした。殆ど取られてしまって、手元に残ったのはあのワンピースだけだったんです」

 彼は返事を返さなかった。ただ、ハンドルを握る力が増したような気がする。その横顔から、静かな怒りを感じ取れた。