彼の目元は、優しく目じりが下がっていた。目は口ほどに物を言う、とはよく言ったもので、彼の瞳を見てどんな感情なのかすぐに見て分かった。さらには耳を赤くさせ、弾んだ声を出す。

「ありがとうございます、大事にします」

「へ」

「結局買い物では僕の服を選ぶ前に帰宅になってしまったから……使うのもったいないですね。でも使わないのももったいないか。はは、どうしよう、顔が緩んで恥ずかしい」

 もはや、私は口をぽかんと開けて、信じられない相手の反応に放心するしかなかった。

 めちゃくちゃ喜んでる? 嘘でしょう、こんな金持ちの人間が、あんな安物を? 一体どうなっているんだ。

 これが演技だというの? 

 ニコニコしながらハンカチを丁寧に袋に入れなおす彼を見ていると、私の様子に気がついたらしい。バツが悪そうに笑った。

「はしゃぎすぎましたね、すみません」

「いえ、あの、贈った私が言うのもなんですが、全然大したものじゃないじゃないですか。そんな喜ばれるとは思ってなくて、あの」

「京香さんから初めて頂いたプレゼントなので、特別ですよ。今後長く一緒に生きていけば、これはとても思い出深い一品になります」

 それはまるで、これから先も私が彼の隣に当然いるという前提の言い方。私は戸惑いを隠せない。

 脳内はぐるぐるといろんな場面が回る。朋美の顔、理人さんの顔、お母さんの顔、社員みんなの顔。もう自分が何をすればいいのか、どうすればいいのかも分からなくなってきている。一体何を信じればいいのか。

 嫌われて結婚をなしにする、なんて、本当にできるのか。そしてそれが正しいのか……。

「京香さん? 顔色が悪いように見えますが」

「え? い、いいえ」

「体調がすぐれないなら、あまり飲まない方がいいですよ」

 心配そうに顔を覗き込んでくる彼に、なぜかいら立ちを覚えた。自分をこんなに乱す彼の存在が、とても憎いものに思えたのだ。いつだって、私ばかり必死になってる。

「大丈夫です、化粧してないからそう見えるだけです」

「そうですか? メイクしてなくても可愛らしいですよね」

「ええ、よく言われます!!(ヤケクソ)」

「それは、例えば今まで付き合った男性とか?」

 そういった理人さんの声色が、やや変わったように感じた。だが、彼の顔を見てもさして変化はない。気のせいか。

 今まで元カレに『すっぴん可愛い』なんて一度も言われたことがない私だが、あえて大きな声で言っておいた。