ワンピースはクリーニングに出し、理人さんは今日帰宅用に、また一枚洋服を買ってくれた。今日購入したものは、ほとんど宅配で届くことになっているのだ。クリーニングの店主は、『これぐらいなら大丈夫、綺麗になります』ときっぱり断言してくれてほっとした。隣で理人さんもよかったと喜んでいたのが、深く印象に残る。演技とは思えない、本当にうれしそうな顔。

 店に入った時も、『とても大事なものだから丁重に扱ってほしい』と威圧感たっぷりに言っていた。私のワンピース一枚に、こんなに必死になってくれるとは思わなかった。

 理人さんは、今日はもう帰宅しようと提案してくれた。私は同意し、彼の服を選ぶという約束は果たさないまま帰路につく。

 車に乗り込むと、さっそく理人さんは私に謝罪した。

「京香さん、すみませんでした」

 エンジンだけかけ、まだ出発しない車内で、彼は項垂れる。

「どうして理人さんが謝るんですか」

「巻き込んでしまったので。元々は僕の見合い相手ですし」

「ああやっぱり……別に、私も言いたいことを返したのでいいです」

 つっけんどんに言い返すと、彼は一人で小さく笑った。思い出し笑いをしているようだ。

 ハンドルを握ったまま、肩を震わせている。

「すみません、京香さんの凛々しい姿があまりに凄くて」

「品がないのは私もでした。ま、私はいつもあんな感じなんですけど」

「そうなんですか」

「ええ、気に入らない相手には平気で言い返しますよ」

 これは本当のことだ。それが原因で男に振られたこともある。嫌われたいとかは置いておいて、正直な事項である。

 でも理人さんは全く引いていなかった。それどころか嬉しそうに笑い、一体この人のツボはどうなっているんだろうと不思議に思う。

「いいと思います」

「別によくないです。いいクリーニング屋を教えてもらったのはありがたかったです」

「あれくらいのこと。でも、お母様の大事なワンピースにシミが残らなくてよかった」

 そう目を細めて嬉しそうに言う彼に、どきりと心が揺れた。慌てて答える。

「別に大事ってほとでは」

「あなたにもよく似合ってる」

「……そ、れはどうも」

「せっかくの食事も台無しにされましたし、今日は大失敗です。またリベンジさせてくれますか」

 私は隣を見る。理人さんが私の顔を覗き込んでいた。

 大失敗って。色々なものを購入し、美味しい料理を食べさせ、エスコートも何もかも完璧だったのに。榎本さんの出現は彼のせいじゃないのに、今日を大失敗呼ばわりか。