「ここです、どうぞ」

「あ、はい」

 中へ入ると、清潔感のある店内だった。結構新しい店なのだろうか。入った途端、いい香りが漂い、つい肺いっぱいにそれを吸ってしまった。

「理人さん!」

 すぐに中から人が出てきた。中年の男性だ。理人さんの顔を見るなり、嬉しそうに近づいてくる。この店のオーナーなのだろうか。

 理人さんが笑顔で対応した。

「ご無沙汰しております」

「本当ですね、しばらく見ない間にまた男前になられて!」

「いやいや」

「今日はお二人で……え?」

 男性は、私を見て驚いたように目を丸くした。何だか居心地が悪くなり、視線を落とす。もしかして、珍しく平凡な女を連れているな、とでも思われたか。

 だがしかし、男性はすぐに嬉しそうに笑ったのだ。

「そうですかそうですか! いや、理人さんもついに。嬉しいですなあ、いつこの店に素敵なお相手を連れてきてくれるのかって待っていたんですよ」

「あはは、ありがとうございます」

 私は顔を上げて二人を見る。とても楽しそうに笑っていて面食らってしまった。

 あの男性の話を聞くに、女性を連れてきたのは初めてなのだろうか? まさか、昨日初めて会ったばかりの私を? そう考えて首を振った。もし過去に誰かを連れてきても、それを言うわけがないじゃない。

 私はさすがに挨拶ぐらいせねば、と思い頭を下げた。

「五十嵐京香です」

「五十嵐さん。席をご用意しております、こちらへどうぞ」

 男性はそう言って席へ案内してくれた。店内はそこそこ席が埋まっている。ゆったりとしたジャズのBGMが流れていた。私たちの席は、一番奥の窓際だった。

 真っ白なテーブルクロスが敷かれた席。何も言わず奥の席に腰かけた。ゆっくり辺りを見回すと、なるほど、いい店だ。高級店、というわけではないが、落ち着きもあり店内は優雅な雰囲気が漂っている。店員も質がよく、当然清潔感も満点だ。

「どうですか。僕の昔からの行きつけなんです」

 理人さんは、わくわくしたような顔をして聞いてきた。それがどこか子供のような顔で、ぐっと言葉に詰まる。嫌われたいなら、ここで店にいちゃもんでもつければいい。人間、自分が好きなものを貶されるのが一番嫌なのだ。

 分かってはいる。

(……でも、それってこのお店の人も傷つけるよね。今食事をしてるほかのお客さんも)