(さすが八神……私は入ったことないよ、ここ)

 私は心の中で感心した。期待を裏切らないな、という感想だ。理人さんが尋ねた。

「京香さんもよく来ますか?」

 その質問に、私は正直な答えを出した。変に見栄を張って、質問が続いたらぼろが出ると思ったのだ。

「いいえ、実はここは来たことがないんです」

「そうでしたか」

「でも、もちろん知っていますし、私が好きなブランドも入っていたはず」

「よかった。早速行ってみましょう」

 彼はそう言って歩き出す。背後から少し離れたところで、その後ろ姿を見つめた。

 スラッと背が高く、足が長い。白いシャツに黒いジャケットというシンプルな服装なのに、彼が着ているだけで最高にオシャレな服装に見える。広い肩幅も、男性、という感じがしてちょっとかっこいい。

 ああ、何を隠そう外見はめちゃくちゃ好みだ。

 けれど同時に、自分が釣り合っていないことが分かり切っていた。とびきり美人でもないし、スタイルがいいわけでもない。服も着こなせていないし、メイクだって安物ばかり。何より、無理に背伸びしているのが自分で苦しい。

(こんな男の隣歩くのも、酷な話だな)

 小さくため息をつきつつ、それでも前を向いた。この買い物にかけているのだ自分は。

 とにかく嫌われるよう、嫌われるよう、それだけを考えて動くんだ。

「京香さん?」

 振り返った理人さんが不思議そうにこちらを見る。私は微笑んで、堂々と歩き出した。隣に並び、胸を張って歩く。

「理人さんはどんなものが好きなんですか」

「やっと質問してくれましたね。そうですね、黒や紺などの色が多いと思います」

「ふうん」

「まあ、私服はそんなに多くないです。仕事着の方が圧倒的に多いですね」

「へー」

「兄にはよく、センスが悪いって言われました、だから京香さんが選んでいただけたら嬉しいです」

「へー、ん!?」

 適当に流そうとして驚く。隣を見上げると、理人さんが楽しそうに笑っていた。私に服を選べということ? こっちだって、普段はユニ〇ロで全身揃えるような人間だぞ!

 一瞬困るが、すぐに思いなおす。逆に、とんでもなくダサい服選んで引かせるのもありかも。それだ、イケメン帳消しになるような服を選んでやる。

「任せてください、理人さんに合うものを見繕います」

「楽しみですね」

 彼はそう嬉しそうに言った。