式典の挨拶を終えたルヴェルグは家族三人を連れて二階にある皇族のスペースに行くと、執事にワインや軽食を持ってくるよう命じ、ワインレッドのソファに腰を下ろした。その手にはエレノスから受け取った紫色の薔薇があり、指先でくるくると玩んでいる。

「我が弟エレノスよ。そなたが花を持ってくるとは珍しいものだな」

エレノスは柔らかに微笑むと、花を奪われ拗ねているローレンスの肩に手を置いた。

「我らの弟、ローレンスが育てたものです。一番美しく咲き誇ったものを陛下に、と」

そんなわけあるか、とルヴェルグは心の中で吹き出した。ローレンスは女好きで、年中貴族の娘たちに花を贈っては口説いている。今日だけは大人しくしていろという意味を込めて、エレノスは花を取り上げルヴェルグに渡したのだろう。

「ははっ、どこぞの令嬢ではなく私に贈られるとは、後が怖いな」

兄たちの微笑ましい会話を聞いていたクローディアは、久方ぶりに会うルヴェルグの姿を見て頬を綻ばせていた。その視線に気づいたルヴェルグは、長い指でクローディアの頬をそっと撫でると微笑みかけた。

「皇女クローディア。息災か?」

「ご機嫌麗しゅう、皇帝陛下。陛下のご尊顔を拝し奉り恐悦至極に存じ奉ります」

「堅苦しい挨拶はよい。ここには我ら家族しかいないのだ」

下の階、すなわちホールは他国からの賓客や貴族たちが大勢来ているため、皇族として立ち振る舞いには気を遣わなくてはならないが、現在地は皇族しか立ち入ることが許されていないスペースだ。

肩の力を抜きなさいと遠回しに言われたクローディアは、ルヴェルグに差し出された手を取り傍らに座った。