「──アウストリア帝国皇帝、ルヴェルグ皇帝陛下の御成っー!!」

その声とともに、皇帝を迎えるファンファーレが奏でられる。赤い薔薇を敷き詰めたような絨毯が階段に敷かれ、颯爽と現れた皇帝・ルヴェルグはその上を優雅な足取りで歩き始めた。

国の最高権力者を出迎えるかのように吹き荒れた風が、ルヴェルグの長い髪を揺らす。緩くウェーブがかかっているその髪は黄金色で、切れ長の瞳は王族の象徴である紫色だ。

階段を降りたルヴェルグはエレノスから剣を受け取ると、それを左手に握りながらぐるりと皇宮内を見渡した。

「皆、面を上げよ」

アウストリア帝国の現皇帝であるルヴェルグ一世は、今年で即位五年目を迎える。まだ二十五歳と年若いが、この五年間でいくつもの国を征服し、長きに渡った戦争を終結させるなどその能力の高さは目を見張るものである。

生母は林業が盛んな伯爵家の出身で、四人兄弟の中では一番母親の身分が低いことを即位前は気にしていたようだが、終わらない戦から家族と民を守るために自ら帝位を継いだ。

皇族に生まれた誇りと威厳に満ちており、自己にも他者にも同様に厳しい性格をしていて、皆ルヴェルグを前にすると言葉を詰まらせてしまったり、頭の中が真っ白になるが、ルヴェルグは怪我をした鳥を執務室で自ら献身的に世話をするなど意外な一面もある人物だった。