「これはこれは、兄上に我が妹クローディアよ。ご機嫌はいかがかな?」

皇宮に着いた二人を真っ先に出迎えたのは、エレノスと同じく皇弟であるローレンスだった。

二人とは腹違いの兄弟であるローレンスは、帝国一の貴族・ジェラール家の公女が母親であり、兄弟では一番高貴な血を継いでいるため次期皇帝に、と望む人間が多かったが、その座は現皇帝の即位前に自ら辞退し、それを聞いた母親は驚愕のあまり倒れてしまったそうだ。

ジェラール公爵家の特徴とも言える紫色の髪と皇族の証である菫色の瞳を持つローレンスは、容姿こそ銀髪の兄妹に見劣りしないが、少々性格と趣向に難があった。

「ご機嫌よう、ローレンス兄様」

クローディアはドレスの裾を持ちふんわりとお辞儀をしたが、エレノスは微笑を浮かべたまま固まっていた。そのこめかみには青筋が浮かんできている。

「……ローレンス。私が贈ったクローディアと揃いの衣装は着てこなかったのかい?」

「おお、兄上よ、よくぞ聞いてくださった!」

ローレンスはエレノスの両手を握ると、瞳を潤めかせながら口をぺらぺらと動かし始めた。

「兄上が送ってくださったタキシードだが、朝起きて窓を開けて風を入れた瞬間に春風に吹かれてしまって、これは何かよくないことが起きる前触れではないかと思った僕は泣く泣くタキシードを我が母の肖像画の前に置き祈りを捧げることにし、ちょうど注文し届いた純白のタキシードに紫色の薔薇を飾ることに──」

「今日は白が良かったんだね?」

「それは誤解だ兄上っ! 僕は、僕は母の霊にっ…」

亡き母の霊が耳元で囁いてきたという理由でエレノスからの厚意を自室に置いてきたと語るローレンスは、純白のタキシードに紫色のタイ、紫色の薔薇を一輪胸元に挿していた。