「俺は、子供の未来を守りたくて、守る力が欲しくて、ディアとの結婚を利用することを選んだけど、ディアにも笑ってて欲しいって思ってる。だから、俺にできることなら遠慮なく言ってほしい。…できることなんて少ないけど」

リアンは笑う。喧嘩は弱いが、料理や洗濯はできると。子供と遊ぶのが得意で、駆けっこや木登りはお手のものだと。普通の王族のように、貴族社会の文化や王家のしきたりには疎いが、物覚えは良いから本を読んで努力する、と。

そうして、苦手なダンスも“皇女の夫”の名に恥じぬよう、これから励んでいくと言って優しく笑うと、壊れ物に触れるかのようにクローディアの体を抱き寄せた。

リアンが喋れば喋るほど、熱い雫が頬を伝った。薄桃色の寝衣に、ぱたぱたと雨が降り注いでいく。

「……傍にいるよ。いつか、ディアが心から愛する人に出逢えるまで」

その一言に、嗚咽は止まらないものになった。

きっとひどい顔をしているのだろう。ぼろぼろに泣きじゃくるクローディアの頬に添えられていた手が、後頭部へと動き、リアンの胸へと手繰り寄せられる。

「夜は一緒に眠ろう。朝ごはんも一緒に食べよう。朝は一日の予定の話をして、夜寝る前はその日あったことを話そう。これは、夫婦にしかできないことだから」

ありがとう、と答える代わりに首を振れば、クローディアの目尻から光の粒がはらはらと散った。

少女と見間違えるくらいに綺麗なリアンは、男の子にしては細く、兄たちと比べたら折れてしまいそうな体つきをしていたが、クローディアを抱きしめる腕の力は強く、腕の中は暖かかった。


クローディアはリアンの腕の中で、初めて神に感謝をした。

フェルナンドと再び巡り合わされたことに一度は恨んだが、こんなにも優しい少年との縁をくれたのだ。

息もできないほどに涙が溢れていたが、胸の中はあたたかかった。