「そばにいるよ。何があっても」

王族とは思えないくらいに傷だらけの手が、クローディアの白い手の上に重ねられる。その手はいつかの日に触れた時よりも熱く、真夏のような熱を持っていた。

どうして、と言わんばかりに顔を歪ませたクローディアの頬に、リアンのもう一つの手が添えられる。

「神サマとディアの家族と約束、したから。何があってもそばにいるって。幸せにするって」

「……どうして? 私たちは、本当の夫婦じゃないのに」

「そこに本物とか偽物は関係ない。ただ俺がそうしたいって思って、したいようにしているだけだから」

「っ…………」

クローディアは言いかけた言葉を失った。何を言おうとしたのかさえ、忘れてしまった。

この結婚は、クローディアにとって盾であった。フェルナンドがもうクローディアに手を出せないようにする為の既成事実であり、かの者が口にした悍ましい運命から逃れるためのもの。

そのために、クローディアはリアンを利用し、リアンにもクローディアを利用してもらうつもりだ。

だというのに、リアンはクローディアを幸せにすると言う。そこに本物も偽物もないのだと微笑んでいたのだ。

ただ、そうしたいから、そうするのだとも。その想いを贈られた今、クローディアは息が詰まったような感覚がして、どうしようもなく肺が苦しくなった。