「………ディア?」
クローディアがごくりと喉を鳴らしたのと、リアンがゆっくりと名前を呼んだのは同時で。クローディアの一言が意外だったとでも言うかのように、リアンは目を見張っていたが、何も発さずに続きを待っていた。
「…たとえばの話よ。もしも、私と夫婦でいる必要がない日々が訪れたとしたら、リアンはどうする?」
「どうするって…何でそんな事、」
リアンの眉が顰められる。きっと、聞くまでもないことだったのだろう。それっきり、口を閉ざして考え込んでしまったリアンの横顔を見て、クローディアは訊かなければよかったと後悔した。
(──考えれば、分かることなのに)
クローディアは俯いた。
リアンに夫として隣に居てもらう必要がなくなるとしたら、それはフェルナンドかクローディア、どちらかの呼吸が止まった時で。そうなれば、リアンを縛る理由はなくなり、彼は自由になれる。
だからきっと、この関係を続ける必要がなくなる日が来たら、リアンはいなくなってしまうのだろう。
そう、思ったのに。
意を決して顔を上げたクローディアの目に飛び込んできたのは、雪溶けの春のような淡い微笑を浮かべているリアンだった。