そんなリアンのことを、クローディアは利用した。リアンの夢を叶える力と引き換えに、夫という名の鎖で縛りつけ、フェルナンドから逃れるための盾にした。
だというのに、リアンは形だけの関係だとしても、大切にしようとしてくれているようだった。こうしてクローディアに向き合い、共に寝起きをしようと提案してくるのだから。
クローディアはゆっくりと視線を落とした。
「……夫婦って、他人だと思ってたわ」
「別々の人間に変わりはないよ。夫婦だろうと親子だろうと」
リアンは恐る恐るといったふうにクローディアの隣に腰を下ろす。二人の間には人間が一人入れるくらいの距離があった。
「…知りたいなって、思ったんだよね。ディアのこと」
優しい声に、クローディアはふらりと視線を持ち上げる。
「今更だけど、色々とすっ飛ばしてきちゃったから」
「すっ飛ばしたって、だって、そもそも私たちはっ…」
「──だからさ、ディア」
俺の話を聞いてよ、とリアンは話を遮ろうとしたクローディアに言うと、美しい銀色の髪をそっと撫でた。
「何が好きとか、何が嫌いとか。行きたい場所とか、やりたいこととか、教えて欲しい。…そうして互いを知っていって、その先でいつか、同じ景色を見れるようになれたらいいなって思う。せっかく隣で生きているんだから。…いつか終わってしまう関係なのかもしれないけど」
「……いつか、終わってしまうのかしら」
クローディアはぽつりとこぼす。形だけの関係とはいえ、夫婦には終わりがあるものなのかと疑問を抱いたのだ。