「…別々に寝てるって噂されたら嫌じゃない?」

頭の上にハテナを浮かべているであろうクローディアに、リアンは少し困ったような顔をしながら話を続ける。

「俺たちは政略結婚みたいなものだけどさ、互いの利害の一致のためだけとはいえ、一応夫婦なわけだし……寝起きは一緒にして、話せる時に、話せることは話しておきたいなって思って」

「…………」

「たとえ表向きだけのものだとしても、家族になったわけだし。こんなに近くにいるのに、他人のままでいるのは寂しいなって思ったから」

それがクローディアに一番伝えたかった言葉だとでも言うように、リアンはクローディアを見つめ、一音一音を大切に紡いだ。真摯な表情を間近に眺め、クローディアは言葉を発することもできずにいた。

(──リアンは)

クローディアはリアンの顔をじっと見つめる。まるで宝石のような、青く澄んでいるリアンの瞳に、無表情の自分が映っていた。

クローディアがリアンを夫に選んだのは、リアンになら裏切られてもいいと思えたからだ。リアンはクローディアにとって、二度目の人生を自らの足で歩き出した日から、初めて外の世界で出会った人だった。

名を知って、同じ身分の人間だと知って、フェルナンドの弟だと知って──戸惑い、背を向けそうになったにも関わらず、リアンはクローディアをひとりの人間として接してくれた。