「……目の前にいる人が、戦争を終わらせた覇王か」

「ええ。それは確かなことよ」

リアンは剣ではなく、農具を握ってきたことにより荒れている手を握りしめながら、ルヴェルグへと目を向ける。

約四年前に終結した大陸全土が巻き込まれた大戦の時、リアンはまだ十三歳で、王宮の隅で隠れるように生きていた子供だった。

外で戦が起きていたことは知っていた。けれど、どの国が始めたのか、どれくらいの規模なのか、誰が悪くて誰が悪くないのか、何人が死んだのか、自国の状況はどうなっているのか、何一つ分からなかった。

だが、ただ一つだけ分かっていたことがある。それは、王国の西隣にある帝国の新皇帝が革新的な戦術を用いて、大陸の西側から攻めてきた国々を次々と制圧し、勝利したということ。

それにより、戦に怯えていた王国は、戦わずして国の平和と民の命を守れたのだ。

(……なのに、なんで…)

リアンは無意識に俯きながら、考え事をし始めた。

王国は覇王の国となった帝国の機嫌を取り、友好的に付き合っていこうと国王は考えているというのに、何故王太子であるフェルナンドは帝国を怒らせるようなことをしようとしていたのだろうか。

帝国の唯一の皇女であり、皇帝の妹であるクローディアにあのような暴行紛いなことをしておいて、万が一皇帝に露見したらどうなるかなど考えなかったのだろうか。


──もしも、フェルナンドが信ずる神が、神ではなく、ただの悪しき人なのだとしたら。一体何を企んで、フェルナンドとクローディアが番となる運命であるなどと告げたのだろうか。

リアンは頭がズキズキと痛むのを感じながら、隣で笑っている、形だけの妻の手をそっと握った。