それは、蕩けるような優しい微笑みを浮かべているルヴェルグの姿だ。
(ルヴェルグ皇帝陛下って、こんな風に笑う人だったんだ)
リアンは自分の知るルヴェルグと、目の前で笑っている義兄の姿を頭に浮かべ、首を傾げた。
帝国の皇帝──ルヴェルグ一世という人間は、何十年も続いていた大陸全土の戦争に終止符を打った人物だ。全てを消し去るような眩い金の髪を靡かせながら、自ら剣を手に取り戦場の前線を駆け抜けていた戦士でもあったと聞いている。
威風堂々とした、稀代の皇帝。どの国でもそう語られているルヴェルグは、近づき難い人なのだと思っていた。
だが、実際は違っていた。
「お転婆娘のメルリアナは元気か?」
「妹も元気にしていますよ。ファーストダンスは陛下と踊るんだって言って聞かなくて、両親を困らせています」
「それは光栄だ。私でよければ喜んでお受けしよう」
「もう、陛下ったら」
リアンの目の前にいるルヴェルグは、ベルンハルトと家族の話をしながら優しく笑っている。冷酷な覇王だと聞いていたが、とてもそんな人には見えない。
「リアン、どうしたの?」
隣に座るクローディアが、心配そうな面持ちで顔を覗き込んできた。リアンは前を見据えたまま、ゆっくりと唇を開く。
「…いや、俺が聞いていた皇帝陛下とは、随分印象が違うから……驚いてた」
リアンの言葉に、クローディアはふふっと淑やかに笑う。
「ルヴェルグ兄様はおっかないように見えて、本当は優しい人なのよ。子供が大好きで、月に一度お忍びで街へ出て、お菓子を配りに行っているもの」
他にも、国の子供のために新しい行事を考えていたり、動物の保護活動を密かにしているという。
噂はひとり歩きすると言うが、ここまで異なっているとなると、最早意図的に流されたものではないかと思ってしまう。