パタパタと駆けていく妹の後ろ姿は、まるで魔法が解ける前に行かなければと急ぐ童話の主人公のようだった。

幼馴染の来訪の報せを聞いて飛び出していったクローディアを見送った三人は、仕切り直すようにワインで乾杯をすると、その場から使用人を全員下がらせた。

「そなたとディアの従兄弟であるベルンハルト公子が、やはりディアの結婚相手に相応しいか?」

ルヴェルグの視線の先には、エレノスとクローディアの亡き母君の兄である男性・オルシェ公爵がいる。

オルシェ公爵家は、遥か昔の皇帝の兄弟が臣下となり初代当主となった歴史ある一族だ。妃を輩出したり、皇女が降嫁したりと、皇族とも縁が深い。


「…敢えて挙げるならば、ですね。他国の王族に嫁がせるよりはずっといい」

エレノスはひっきりなしに挨拶をされているベルンハルト公子を見つめていた。

ベルンハルトはエレノスとクローディアと同じ銀髪で、大きなダークグレイの瞳をしている。堅物と言われているオルシェ公の息子だというのに、純粋で真っ直ぐで、いつも笑顔を絶やさない心優しい少年だ。

「ベルンハルト公子の父君であるオルシェ公は、我らの伯父上ですから」

「亡きソフィア皇妃の生家であるオルシェ公爵家の次期当主、か。降嫁させるには申し分ない身分だが、血が近いのが悩ましい」

「あんなに小さかった我らのディアは、今年で十六。釣り合う身分で、ディアを幸せにしてくれる者が現れると良いのですが」